増資
増資の種類
企業が新株発行により資金調達を行う方法としては、公募増資と第三者割当増資、株主割当増資の3種類があります。
株主割当増資
新株式の割り当てを受ける権利を既存の株主に与えて行う増資です。株主はその持ち株数に応じて有償で新株式が割り当てられますが、割り当てを受けた株主に申し込み・払い込みを行う義務はなく、申し込みがなければ権利は失権します。新株式の払込金額は株式市場での時価とは関係なく設定され、一般的には既存株主の経済的利益を害することがないことから、時価より低い払込金額で発行されることが多いです。この増資方法は、増資の前後を通じて株主構成や持分割合に大きな変化が生じない等の利点があります。
第三者割当増資
発行会社の従業員や親会社、業務提携の相手先、取引先、金融機関等、発行会社と関係のある特定の者に新株式の割り当てを受ける権利を与えて行う増資です。株主であっても構いません。特定の縁故者に割り当てることから「縁故割当増資」ともいいます。払込金額は時価より多少割り引かれるのが一般的ですが、時価より特に有利な価格で発行する場合には、公募増資と同様に、株主総会でその理由を開示して、特別決議を経なければなりません。
公募増資
現在の株主や特定の第三者に限らず、広く一般の投資家を対象に株主を募集し、新株式の割り当てを受ける権利を与えて行う増資です。払込金額は時価より多少低めとなるのが一般的ですが、時価より特に有利な価格で発行する場合には、既存株主の利益の保護のため、株主総会でその理由を開示して、特別決議を経なければなりません。中小企業ではあまり行われません。
利益剰余金の資本組み入れによる増資
会社の利益剰余金を資本金に振替え、新株を発行しない増資の方法があります。これを、利益剰余金の資本組み入れといいます。平成21年4月に会社法計算規則が改正され可能となりました。利益剰余金の資本組み入れと同時に、通常の新株発行による増資も可能です。
DES 債務の株式化
債務を株式に振り替えて増資をする方法もあります。債務の株式化(DES)と言います。
※登録免許税は、増資金額の1000分の7、最低3万円です。
株主割当増資
既存の株主に新株を割り当てることにより資本を増強させる方法です。
株主総会議事録
- 非公開会社(譲渡制限株式会社)の場合
- 募集事項及び会社法202条各号に掲げる事項(以下、当該事項)を株主総会の決議によって定めます。
- 取締役会を設置していない会社において、定款で当該事項を取締役が決定できると規定している会社にあっては、その取締役の決定になります。
- 取締役会を設置している会社において、定款で当該事項を取締役会の決議によって定めることができると規定している会社にあっては、取締役会の決議になります。
- 株式を募集することによって、「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」は、種類株主総会の特別決議が必要です。
- 公開会社の場合
- 当該事項を取締役会の決議によって定めます。
- 上記の場合、株主総会議事録の添付は不要ですが、株式を募集することによって、「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」は、種類株主総会の特別決議が必要です。
取締役会議事録等
- 非公開会社(譲渡制限株式会社)の場合
- 当該事項は原則、株主総会で決議するので不要です。
- 取締役会を置かない会社において、定款で当該事項を取締役で決定できると規定している会社にあっては、取締役の過半数の一致を証する書面が必要です。
- 取締役会設置会社において、定款で当該事項を取締役会の決議によって定めることができると規定している会社にあっては、取締役会議事録が必要です。
- 公開会社の場合
- 当該事項を取締役会の決議によって定めますので、取締役会議事録が必要です。
- 取締役会で当該事項を定めたときは、申込期日(募集株式の引受けの申し込み期日)の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項・当該株主が割当を受ける募集株式の数・申込期日を通知しなければなりません。
募集株式の引受申込み等
募集株式の引受けの申込をする者は、申込をしようとする者の氏名又は名称及び住所、引受けようとする株式の数を記載した募集株式の引受けの申込み又は総数引受けを行う契約を証する書面を会社に交付しなければなりません。
払込があったことを証する書面
金銭の払込みの場合は、会社代表者の証明文を付し、通帳の写し(通帳の表紙・見開き1ページ目・該当する取引明細が分かるページなど)等を合わせて綴ったものに、会社代表者印を捺印した書面を作成します。
資本金の額の計上に関する証明書
新株を発行した場合における資本金の額の増加額に関して、計算の経過を説明し、会社代表者が記名、捺印した書面を作成します。
株主全員の期間短縮同意書
株主割当増資では、株主に申込の準備をする期間を与えるため、株主に対して、申込期日の2週間前までに、以下の事項を通知しなければなりません。
- 募集事項、当該株主が割当を受ける募集株式の数、申込期日
公開会社か非公開会社であるかを問わず、当該事項を決定してから申込期日までの期間が2週間ない場合にあっては、当該期間を短縮することにつき株主全員から同意を得た書面の添付が必要になります。
変更登記申請必要書類
- 変更登記申請書
- OCR申請用紙(登記すべき事項)
- 株主総会議事録
- 取締役会議事録又は取締役の過半数の一致を証する書面
- 募集株式の引受けの申込又は総数引受けを行う契約を証する書面
- 金銭を出資の目的とするときは払い込みがあったことを証する書面
通帳の写しを付けますが、払込人の記載は必ずしも必要ありません。金額も多い分には構いません。法務局は、日付と金額が出資額以上であることを確認します。 - 資本金の額の計上に関する証明書
- 株主全員の期間短縮同意書
現物出資の場合は更に以下の書類も必要
- 現物出資に関する書面
- 検査役の報告に関する裁判があったときはその謄本
第三者割当増資
まず最初に、第三者割当の募集事項と募集株式の割当に関する事項を決定します。
- 募集事項:募集株式数、1株当たりの払込金額、払込期日など
- 割当に関する事項:具体的に、誰に何株、どのような条件で割り当てるかなど
決定に関しては、公開会社か非公開会社か、取締役会設置会社か非設置会社か、などにより、株主総会、取締役(会)どちらの機関で決定するかが決まってきます。以下が原則的な例になります。
- 取締役会非設置会社:両方とも株主総会の特別決議
- 取締役会設置会社 :募集事項は株主総会の特別決議、割当事項は取締役会
その後、株式割当の引受者から申込証を受領し、実際に出資金の払込をしてもらいます。払込が終了したら、代表取締役が全額の払込があったことを確認、証明します。
第三者割当増資の場合は、株主割当増資とは異なり、申込期日の2週間前までに、申込事項を通知しなければならないという制約はありません。
譲渡制限(非公開)会社で取締役会がある場合
- 募集事項の決定を取締役会に委任しない場合
- 株主総会で募集事項を決議する。
- 取締役会で割り当てを決議する。
- 募集事項の決定を取締役会に委任する場合
- 株主総会で募集事項に関しては取締役会に委任する旨決議する。
- 取締役会で募集事項を決議する。
- 取締役会で割り当てを決議する。
- (もしあれば総数引受契約を承認する。)
変更登記に必要な書類
- 変更登記申請書
発行済株式の総数と資本金の額を変更します。
登録免許税は、増資金額の1,000分の7(最低3万円)です。 - 登記すべき事項
登記変更日は払込日になります。 - 添付書類
- 株主総会議事録(以下を決議します。)
- 募集株式の数
- 割当方法
- 募集株式の払込金額
- 募集株式と引換えにする金銭の払込期日
- 増加する資本金額及び資本準備金額
- 払込取扱金融機関
- (取締役会議事録又は取締役の過半数の一致を証する書面)
- 募集株式申込証
- 払い込み証明書
通帳のコピーを綴じて契印します。通帳に払込人の記載は必ずしも必要ありません。金額も多い分には構いません。法務局は、日付と金額が出資額以上であることを確認します。 - 資本金の額の計上に関する証明書
- 株主総会議事録(以下を決議します。)
非公開会社で、非取締役会設置会社の場合、募集事項の決定も割当ての決定も原則的に株主総会の特別決議になります。
取締役会設置会社の場合は、株主総会で募集事項を決定し、取締役会で割当てを決定するのが原則です。
現物出資も可能ですが、別途所定の書面が必要になります。
総数引受契約書
- 総数引受契約とは、募集株式を引受ける者が、その総数の引受けを行うということを、株式発行会社と契約することです。
- 株式発行会社から株式を引受ける者への募集事項の通知、株式を引受ける者から株式発行会社への募集株式の申込みに代わるものになります。
- 株式を引受ける者が複数でも可能です。
利益剰余金の資本組み入れによる増資
手続き
利益剰余金には、その他利益剰余金と利益準備金があります。
- その他利益剰余金の資本への組み入れ(会社法450条)
株主総会の決議により、以下を定めます。
・減少する剰余金の額
・資本金の額の増加がその効力を生ずる日 - 利益準備金の資本への組み入れ(会社法448条)
株主総会の決議により、以下を定めます。
・減少する準備金の額
・減少する準備金の額の全部または一部を資本金とするときは、その旨及び資本金とする額
・準備金の額の減少がその効力を生ずる日
この後、変更登記申請書など必要な書類を作成し、管轄の法務局に登記申請します。登録免許税は、増加した資本金の額の1000分の7。その額が3万円未満の時は3万円となります。その他、税務署、県税事務所、市町村役場に対して、資本金の額が変更したことについて異動届出書を提出する必要があります。
DES 債務の株式化
債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ: Debt Equity Swap、DES)は、財務改善の手法の一つで、負債(デット:Debt)と資本(エクイティ:Equity)を交換(スワップ:Swap)することです。形式から言えば増資になります。実際のお金は一切動かさずに、貸し手側からすると、債権を元手にした現物出資になり、会社側からすると、返済義務のある借金が減り、返済の必要のない資本が増えることになります。
債務の株式化のメリット
- 資本金が増え、自己資本比率が上がることによる対外的信用のアップ
- 利息負担の軽減(配当負担は生じます。)
- 相続財産の評価額を低くすることによる相続税対策
会社法施行以前は、検査役の調査が必要なため事例が多くはありませんでした。会社法施行後は、債権額以下の価額で出資する場合には、検査役の調査が不要となり、金銭債権の現物出資の手続きが簡略化し、利用しやすくなりました。
変更登記に必要な書類
- 変更登記申請書
- 登記すべき事項
- 添付書類
株主総会議事録
(取締役会議事録又は取締役の過半数の一致を証する書面)
総数引受契約書
総勘定元帳等の会計帳簿(代表取締役の代表印捺印)
資本金の額の計上に関する証明書(代表取締役による)
債務の特定に関して
どの債務を現物出資として資本に置き換えるかに関しては2通りの考え方があります。
- 前期末の借入金内訳書等により、債権者と債務額を証明し、その内の一定額を株式に置き換えるという残高で済ます方法
- 資本に置き換える債務を、いつ、誰から、いくら借り入れたものかという個別に債務を証明、特定する方法
法務局により、上記のどちらの書類を求めてくるかが異なってきます。この件に限らず、法務局毎のローカルルールは結構あるようです。管轄の法務局に確認するのが一番安全でかつ早道のようです。一般に都心の法務局の方が基準が緩く、郊外の法務局の方が厳密なようです。
増資に関わる事項
- 変更登記の際には、株主リストを添付します。
- 海外の法人、個人であっても、特に株主に関する添付情報は必要ありません。
資本金の額の減少
会社の業績が不振で財政を立て直す場合、資本の欠損を填補する目的で減資を行うことがあります。この種の減資は株主、債権者に不利益をもたらすものなので厳格な手続きが必要になっています。
手続き
- 原則として株主総会の特別決議を要件とします。
- 債権者保護手続き(1か月以上の期間を置きます。)
- 公告
官報において減資広告をします。
もし決算公告をしていない場合は同時に決算公告をする必要があります。 - 個別の催告
知れたる債権者に対して個別の催告を行います。
銀行、取引業者など原則すべての債権者で非常に手間がかかります。
実務上は金額等でどこかで線引きをせざるを得ませんが、基準は自ら決めるしかありません。 - 個別の催告をしたくない場合
定款に定めることにより、日刊新聞紙への掲載か電子公告で代替できますが、費用、手間、催告範囲を考えるとあまり得策ではありません。
- 公告
- 登記
資本金の減少額などを登記
必要書類- 申請書
- 株主総会議事録
- 一定の欠損の額が存在することを証する書面
- 公告をしたことを証する書面
- 債権者に対する個別催告書の控え+別紙送付先名簿(契印)
- 上申書
費用
- 官報による公告
減資のみ: 35,000円程度
決算公告も同時:12万円程度 - 登録免許税3万円
期間
合計で2ヶ月程度必要
- 公告掲載までに2週間程度
- 債権者への告知期間1ヶ月
- 登記必要期間1~2週間程度
株式の併合
発行済み株式数を減少させる場合に行います。
株主価値は変わらず、1株当たりの価値が上がります。
株主総会の決議が必要で、発効日の2週間前までに株主に通知する必要があります。
登記は発行日から2週間以内となります。
種類株式
一般に、発行する株式は普通株式で、原則的に、1株に与えられる権利は平等です。株式を保有している株主は、株主総会で議決権を行使したり、配当を受け取ったりなど、その保有する株数に応じた権利を有しています。
普通株式とは別に、権利の内容が異なる「種類株式」を発行することができます。例えば、配当金や残余財産を優先的に受け取れる代わりに、株主総会の議決権を制限した株式を発行することができます。資金の出資を受けたいが、会社の経営権は渡したくないときに利用されます。その会社がIPOすれば莫大な上場益を手にすることができますので、この種の種類株式は、VCが出資するときに応用することができます。
当事務所の会社法務関連サービス
サービス内容
当事務所ではコンサルティング、及び登記に必要な各種書類の準備をしますが、登記自体は司法書士が担当します。
費用
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期間
内容、状況により、異なります。
対応エリア
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