兄弟相続遺言は、自筆証書ではなく公正証書で!

  • 自筆証書遺言が持ち込まれました。
  • 4人の兄弟相続で、しかもそのうち2人は亡くなっており、代襲相続です。
  • 検認に必要な戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本をざっと見積もったところ30通くらいにはなりそうです。
  • もし、公正証書遺言にしておけば、戸籍・除籍謄本が数通で済みました。
  • 相続の手間が天と地ほどの違いがあります。
  • 遺言、とくに兄弟相続の場合は、自筆はやめて公正証書にしないといけません。
  • 仮に自筆証書遺言であっても、7月10日から始まる法務局による遺言書保管制度を利用すれば良いかもしれません。
  • 検認不要なので、戸籍を集めるという大変な手間がなくなると思われます。

相続法改正に係る段階的施行日

2018年、平成30年の相続法改正に係る段階的施行日

  • 2019年1月
    • 自筆証書遺言の方式の緩和(財産目録はパソコン入力可、自署、押印は必要)
  • 2019年7月
    • 被相続人の介護や看病に貢献した親族(例えば子の配偶者など)が金銭請求可能に
    • 自宅の生前贈与が特別受益の対象外に(結婚期間20年以上)
    • 遺産分割前に被相続人名義の預貯金が一部払戻し可能に
    • 遺留分制度の見直し(遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求へ)
  • 2020年4月1日
    • 配偶者居住権、配偶者短期居住権の新設
  • 2020年7月10日
    • 法務局による自筆証書による遺言書の保管制度が開始

民法(相続関係)改正法の施行期日

民法(相続関係)改正法の施行期日は以下のとおりです。

(1) 自筆証書遺言の方式を緩和する方策
2019年1月13日
(2) 原則的な施行期日
2019年7月 1日
(3) 配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等
2020年4月 1日

>法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日について」

>法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」

遺言代用信託

高齢化の進展で相続への関心が高まるにつれ、「遺言代用信託」の利用が急増している。

遺言代用信託はあらかじめ受け取る相続人を指定してお金を預けておくと、本人が亡くなった際に相続する家族などが簡単な手続きでお金を受け取れる仕組み。

通常は本人が亡くなると、本人名義の預金が凍結されてしまうため、相続人は相続手続きが完了するまでお金を引き出すことができない。引き出す際には解約するか名義を変更することが必要で、遺言書や遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書などを取りそろえる手間もかかる。遺言代用信託ではこうした不便さも解消できる。

遺言代用信託の利用はここ数年で急増している。取り扱いが始まったのは2009年度からだが、15年9月末時点で12万件を突破し、半年間で15%増えた。13、14年度はそれぞれ新規契約数が4万件を超えた。ニーズの高まりを受けて「取り扱う金融機関が増えたことが背景にある」(信託協会)という。09年度の新規契約数がわずか13件だったのと比べると、最近になって急速に利用が増えてきたことがよく分かる。

契約数で業界トップの三菱UFJ信託銀行は、家族用の一時金受け取りと定時定額受け取り、自分用の定時定額受け取りの3プランを用意している。

日経新聞2016年1月16日より

自筆証書遺言の内容が有効から無効へ

自筆証書遺言の内容が有効から無効へ

日経新聞11月21日付朝刊に、
斜線の遺言書「無効」 最高裁判決「故意に破棄」認定
という記事がありました。

遺言者自らが赤いボールペンで遺言書全体に斜線を引いた自筆証書遺言は有効か?

  • 遺言内容は、土地建物や預金などのほぼ全財産を長男に相続させる内容
  • 長女が「赤いボールペンで斜線を引いであるので無効」として、無効の確認を求めて提訴した。
  • 一審・広島地裁、二審・広島高裁は、「元の文字が判読できる程度の斜線では効力は失われない」として無効ではないと判断
  • 最高裁第2小法廷は、「赤いボールペンで文面全体に斜線を引く行為は、一般的には遺言の全効力を失わせる意思の表れとみるべきだ」として無効とした。

自筆証書遺言は、無効になるケースが良くあります。できれば公正証書遺言に、自筆証書遺言にする場合では少なくとも専門家に確認してもらうことが必要と言えます。

(2015年11月21日 日経新聞より)

増える尊厳死宣言

尊厳死を選択する人が少しずつではありますが、増えています。

尊厳死とは、本人にも、家族にも負担を強いる延命措置を望まないことで、人間として尊厳を保った最期を自ら選択することです。

医療は人を生かすことを使命としていますし、家族等からの責任追及を恐れますので、最後まで延命の努力をします。それ故、尊厳死を選択するにはそれなりの厳格な手続きが必要になります。医師側に、本人も家族も延命治療を望んでいないこと、医師には何の責任もないことを納得してもらう必要があります。

一つの方法は、尊厳死公正証書を作成する方法です。本人が自ら公証役場に出向き、公証人に尊厳死宣言公正証書を作成してもらいます。もしある程度病気が進んで外出が困難であれば、公証人に自宅、病院などに出張してもらうことも可能です。作成費用は1万2千円程度で、もし出張が必要な場合はそれに1万円程度加算されます。
尊厳死公正証書には、以下のようなことを書きます。
・死期を延ばすためだけの延命措置は一切行って欲しくないこと
・苦痛を和らげる処置は最大限実施して欲しいが、それによって死期が早まっても構わないこと
・家族(具体的な氏名)の同意を得ていること
・延命措置をしないことに関し、医師や家族に責任がないこと
・この宣言は、自分の精神が健全な状態のときにしたものであること

もう一つ、日本尊厳死協会(http://www.songenshi-kyokai.com/)に入会する方法もあります。これは一般社団法人で、尊厳死に関わる様々な活動をしています。尊厳死宣言書を作成し、原本を協会で保管し、会員には宣言書のコピー(原本証明付き)と会員証が送られてきます。会費は年間2千円です。

(2014年 2月 5日 日経新聞より)

公正証書遺言が急増

日経新聞の夕刊に、公正証書遺言が以下のように急増しているという記事がありました。

1971年 約15,000件
1980年 約30,000件
1990年 約42,000件
2000年 約61,200件
2012年 約88,100件

民法によるお仕着せの相続財産の分割でなく、自分の意思による分割をしたいということでしょう。公正証書遺言の他に、自筆証書遺言もありますので、実数はこれよりはるかに多くなるはずです。
新聞では、例えばということで、以下の3例を挙げています。

  • 夫婦2人で子どもはいない。疎遠な兄弟に財産を渡すのには抵抗があり、すべて長年連れ添った妻に残したい。
  • 共働きの事実婚の夫婦がパートナに財産を残したい。
  • 妻や子供のいない高齢者が、疎遠な親族に財産を渡すよりは親切にしてくれた高齢者支援団体に寄付したい。

もちろん、他にも多くのケースがあると思いますが、正しく遺言を遺すには民法の知識が欠かせません。公正証書遺言を作成するには、直接公証役場に出向く方法でも可能です。しかし、じっくりと相談して分割方法を決めたい場合は、弁護士、司法書士、行政書士といった法律系の専門家と相談する方が良いと言えます。

公証役場に払う費用は、相続財産が500万円超、1,000万円以下であれば17,000円です。専門家経由で行う場合は、それに3~5万円程度プラスになります。

(2013年9月30日 日経新聞より)

遺言の必要な人

  • 夫婦の間に子どもがいない
    →遺言がないと、親兄弟も相続人になり、配偶者が遺産の全部を相続できません
    ⇒配偶者に遺産の全部を相続させる遺言をします
    (親には遺留分があるので注意)
  • 配偶者が籍に入っていない内縁関係
    →遺言がないと、内縁(事実婚)の妻は相続できません
    ⇒遺言で財産を遺贈します
  • よく尽くしてくれた嫁に財産を分けたい
    →遺言がないと、嫁は相続人ではないので相続権がありません、友人なども同様
    ⇒遺言で嫁、友人などに遺贈します
  • 音信不通の子どもがおり、どこにいるのかわからない
    →遺言がないと、遺産分割協議が出来ず、不在者財産管理人などの手続きが必要
    ⇒遺産の分け方を遺言にしておけば、財産承継がスムース
  • 事業を長男に事業用の財産を相続させたい
    →遺言がないと、長男が事業用財産を相続できるかわからず、事業承継が難しくなる
    ⇒遺言で各相続人が取得する財産を指定しておけば安心
  • 障害のある子どもの将来が心配
    →遺言がないと、他の子や施設などがしっかり面倒をみてくれるかどうか心配
    ⇒遺言で負担付きの遺贈する、あるいは後見人を指定することが出来る
  • 暴力をふるうドラ息子に財産を渡したくない
    →遺言がないと、ドラ息子にも他の相続人と同じように相続する権利がある。
    ⇒遺言で非行の相続人を廃除することが出来る
    (以後によらない廃除も可能)
  • 相続人がいないので遺産を社会のために役立てたい
    →遺言がないと、債権者への精算後、残余財産は国家に帰属する
    ⇒遺言で特定の団体に寄付したり、使用方法を指定したりすることが出来る

(2011年6月 6日)

遺贈

被相続人が自分で財産の承継者などを決め、遺言によって与えることを遺贈といいます。

遺贈を受ける受遺者は相続人でも相続人でなくても構いません。特定の相続人に特定の財産を承継させる遺贈は特別受益になります。遺贈は相続権のない嫁や世話になった知人などに財産をあげたいときによく行われます。

遺贈には特定遺贈と包括遺贈の2つの方法があり、それぞれ負担付きの遺贈も可能です。

  • 特定遺贈
    「友人の○○○○氏に保有株式を全て遺贈する」などのように具体的な財産を示して行います。
    遺産分割協議に参加しませんし、債務があっても承継しません。
    相続人などへの意思表示により、いつでもその遺贈を放棄できます。
  • 包括遺贈
    「嫁の○子に財産の2分の1を遺贈する」などのように割合を示して行います。
    以下のように、相続人と同一の権利義務を持つことになります。
    ・遺産分割協議に参加します。
    ・指定された割合で債務も承継します。
    ・3か月以内に遺贈の放棄、あるいは限定承認が出来ます。
  • 負担付きの遺贈
    「長男に土地、家屋を遺贈する。ただし長男は遺言者の妻を看護すること」などと記載します。
    財産贈与と引き換えに、自分の心配なことを託すことができるので有効な方法です。

(2011年6月 5日)

法定相続と遺言

前号は、簡単な遺言書の書き方でした。

遺言がないと相続人の間で紛争が起き易いと書きましたが、一方で遺言があれば紛争が起きないとは言い切れません。必ずしも遺言が絶対ではないことも知っておく必要があります。ある程度、民法上の法定相続を知った上で遺言を書かないと自分の遺言通りに財産分与がされないことがありますし、新たな火種を遺すことにもなりかねません。

そこで、今回は民法上の法定相続の概要と遺言との関係です。

相続人

  • 戸籍上の配偶者は必ず相続人になります。
    内縁、事実婚の場合、相続権はありません。
  • 配偶者以外の相続人としては、順番に子、親、兄弟姉妹のいずれかです。
    優先順位は子、親、兄弟姉妹の順です。子がいれば親、兄弟姉妹は相続人にはなりません。子かいなければ親に、子と親がいなければ兄弟姉妹に相続権があります。
    整理しますと以下になります。

    • A)配偶者がいる場合で、
      A-1)子、親、兄弟姉妹がいない場合--配偶者のみ
      A-2)子、親、兄弟姉妹がいる場合---配偶者と子or親or兄弟姉妹のいずれか
      B)配偶者がいない場合--------子or親or兄弟姉妹のいずれか
  • 代襲相続
    子が先に亡くなっている場合は孫、ひ孫と相続権が引き継がれます。
    兄弟姉妹の代襲相続は一代限り(甥、姪まで)です。
  • 配偶者の親は相続人になりません。直系尊属です。
  • 戸籍上の養子も実子と同じ権利があります。
  • 非嫡出子(婚外子)にも相続権があります。
  • 廃除という相続権を失わせる方法もあります。

法定相続分

  • 上記、A-1)とB)の場合:配偶者、あるいは子or親or兄弟姉妹のいずれかが当然に100%
  • 上記、A-2)の配偶者と子or親or兄弟姉妹のいずれかがいる場合:
    子の場合:配偶者と子が1:1で配分
    親の場合:配偶者と親が2:1で配分
    兄弟姉妹の場合:配偶者と兄弟姉妹が3:1で配分
  • 子、親、兄弟姉妹の中でそれぞれ複数いる場合は均等に分けます。
  • 非嫡出子(婚外子)の権利は2分の1(嫡出子の半分)です。

遺留分

  • 遺言書で上記の法定相続分以下の相続分を指定しても構いません。但し、その相続人には以下の最低保障の期待分があります。
    原則:法定相続分の2分の1
    例外:親のみが相続する場合は3分の1、兄弟姉妹は遺留分なし

特別受益分

  • 生前、他の相続人よりも多い贈与を受けていた相続人には、相続分を前受けしていたという”みなし”で相続分を少なくすることができます。

寄与分

  • 生前、他の相続人よりもより多く故人に貢献、寄与していた相続人には、他の相続人より多くの遺産を受け取れるようにすることができます。

相続放棄

  • 遺言とは別ですが、家庭裁判所で申述書に記入することにより、相続人としての権利を放棄することが出来ます。結果として、次順位者の相続権が繰り上がります。
  • 相続放棄には、ゼロの遺産相続をしたという簡易な相続辞退も可能です。

遺言を書く際に特に注意を要するのは遺留分です。ある相続人に遺留分よりも少ない遺産を残すことは可能です。ただ、その相続人には遺留分減殺請求権があり、遺留分までを受け取ることが可能で、その場合は他の相続人の相続分から取り戻すことになります。一般的には、遺言の中では遺留分は侵害しない方が無難です。

以上のような民法の法定相続ルールを理解した上で、遺産分割をすると遺言書にも説得力が出ます。更に言えば、何故そのような分割方法、分割割合にしたかという理由を書けば、より一層説得力が増します。

近くで起きた実際の話

住宅ローンを抱えたまま亡くなった方がいました。生命保険に加入していなかったのでしょうか、あまりに残債が多かったので配偶者と子供が家裁で相続放棄をしました。ところが、相続ルールを知らなかったのか、面倒だったのか、あるいは甘く見たのか、いずれにしろ亡くなった方のご両親が相続放棄をしませんでした。配偶者と子が相続放棄をしますと直系尊属に相続権が移ります。そして相続放棄も限定承認もしないと単純承認の相続とみなされ、資産、負債全てを相続することになります。亡くなった方名義の土地建物が競売され、債権者に配当されましたが債権が残り、住宅債権管理回収機構から1,000万円強の請求がご両親に届きました。借金を残して亡くなる場合は注意が必要です。

(2010年 1月10日)