ADR(裁判外紛争解決手続)

世の中には様々な揉め事、紛争があります。社会の仕組みが複雑になり、貧富の差が大きくなり、そして権利意識が高まるにつれ、今後もますます紛争が多くなってくると思われます。

ところで、紛争解決に関わる用語には、
裁判、仲裁、調停、あっせん、和解、示談
といったようなものがあります。ただ、裁判は別として、それらの違いが今ひとつ分りにくいところがあります。あるいは何となく分っているようでも、人にその違いを説明出来ないのではないでしょうか?

今回はそれを整理してみたいと思います。

まず裁判ですが、これは別格です。裁判所で裁判官が判決を下す司法手続きで、どなたでもご存知の明確な紛争解決方法です。

仲裁、調停、あっせん

次の仲裁、調停、あっせんですが、これらは紛争解決方法として、一括りにされることが多いです。裁判所以外の民間の紛争解決機関でこれらをセットにして行っているところもあります。基本的に仲裁、調停、あっせんは、裁判にせずに当事者同士で話し合いにより解決する方法になります。その中では仲裁が最も裁判に近く、あっせんが最も当事者同士の話し合い解決に近いといえます。調停はその中間になります。ただ実際は各機関で独自に定義、分類しており、その違いは一意的ではありません。特に調停とあっせんは概念が非常に近く、明確に分類することは困難です。

仲裁

仲裁は、両当事者が仲裁人の判断に従うという前提で話し合いをします。仲裁委員が仲裁判断を下し、その判断は両当事者を拘束します。仲裁判断は確定判決と同様の効力があり、裁判でいう控訴、上告が出来ず確定してしまいます。

調停

調停では、調停委員が両当事者の話し合いのプロセスをコントロールして、お互いが合意するように誘導します。機関によっては調停案を提示するところもありますが、積極的には調停案を提示せず、当事者から解決案を引き出すことを基本的な方針にしている機関もあります。そして、うまく合意できれば、その合意した内容で調停委員も含めた合意書を作成し、取り交わします。しかしその文書自体には拘束力はありません。もし合意した当事者が合意内容を実行しない場合は裁判にして、その合意書を有力な証拠として提出することになります。

あっせん

あっせんと調停の線引きは明確ではありませんが、一般にあっせんの方が調停よりも更に両当事者の話し合いのウェイトが高くなります。あっせん員は話し合いの場を提供するような役割になります。イメージ的に言えば、調停の場合は調停委員が間に入って話し合いをするのに対し、あっせんの場合は両当事者が直接話し合うような違いがあります。あっせん案を提示するか、あっせん員は何名で行うかなどは、調停と同様にそれぞれの機関で取り決めをしています。合意した場合の合意書作成も調停と同様です。

和解

和解は、仲裁、調停、あっせんと違って、話し合いで解決された状態を言います。話し合いの目的あるいは結果であって、紛争解決の手段、方法ではありません。裁判や仲裁のように第三者が判決、判断を下す方法ですと、結果として、和解したというのは言いにくいですが、話し合いが基本の調停、あっせんであれば、目的が和解であり、結果として和解したと言えます。例えば、和解(のための)調停、調停(による)和解と言えることになります。和解は民法上に規定のある一種の契約で、いつでもすることが可能です。仲裁手続き中でも、裁判の直前でも裁判中でも、いつでも和解は可能です。

示談

示談は両当事者の話し合いで解決(和解)する際の一つの類型です。一般には、一方当事者の不法行為を賠償金(示談金)を払って解決(和解)することを示談と言います。従って、調停、あっせんなどの話し合いの結果、合意した際に作成する文書のタイトルは合意書だけでなく、和解書、示談書などにすることもあります。

裁判所における調停

ところで、簡易裁判所、家庭裁判所などでも調停を行っています。司法でも出来るだけ裁判ではなく、話し合いでの解決を図ろうとしていることになります。裁判所に訴えを持ち込んでも、事案によっては裁判より先に調停をすることが義務付けられているものもあります。裁判所の調停は確定判決と同等の効果を持ち、民間の調停とは異なります。

ADR(裁判外紛争解決手続)

さて、最後になりますが、タイトルのADRです。ADRとはAlternative Dispute Resolution の略称で、裁判以外で紛争を解決する手続きを意味します。最近一種のブームになっており、各業界団体、士業などで盛んにADRの認証を取得し、活動を始めています。日本のADR法では上記の民間でおこなう調停とあっせんを規定しています。仲裁には仲裁法という別の法律があります。

(2009年2月12日)