相続した不動産の譲渡所得

相続税は相続時の価格に対して課税されますが、所得税は被相続人の購入金額と相続人の売却金額の差額に対して課税されます。

譲渡所得の計算は、不動産の所有期間によって異なります。所有期間が5年超(長期)の場合と5年以下(短期)の場合では税率が異なり、短期譲渡にかかる所得税は、長期譲渡にかかる所得税の約2倍です。
譲渡にかかる所得税、住民税は次のように計算します。
長期譲渡の場合:{譲渡金額-(取得費+譲渡費用)}×20.315%
短期譲渡の場合:{譲渡金額-(取得費+譲渡費用)}×39.63%

取得価額を示す資料が見当たらない場合、税務署は譲渡価額のわずか5%しか必要経費として認めません。

相続開始の10年前に7000万円で土地建物を購入し、減価償却を加味した後の取得費は6000万円とします。そしてこの土地建物を息子のAさんが相続後4年目に1億円で売却したとします。

領収書がある場合の税額は(1億円-6000万円)×20.315%=約812万円。
領収書がない場合の税額は1億円×(100%-5%)×20.315%=約1929万円。

領収書がないと5%しか必要経費が認められないため、約1117万円も多く税金を払うことになります。

(2016年9月14日 日経新聞)

相続税の改正と節税

来年1月1日から相続税が大きく改正されます。

相続税が発生する相続は、これまで全体の4~5%と言われていましたが、20%以上になると言われています。
都心ではその割合は更に高まります。
相続税に関しては相当の増税と言うことができます。
以下に、情報を整理してみました。

来年からの相続税変更のポイント

  1. 基礎控除
    一番大きいのが、基礎控除の圧縮です。以下のように6割に圧縮されます。これにより、相続税納付の対象となる相続が激増することになります。
    ●~今年)5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
    ●来年~)3,000万円+600万円×法定相続人の数
  2. 相続税率
    相続税率も、相続財産が2億円までは変わりませんが、2億円超になると基本的にアップします。
    ●~今年)3億円以下40%、3億円超50%
    ●来年~)2億円以下40%、3億円以下45%、6億円以下50%、6億円超55%
  3. 小規模宅地等特例
    自宅を配偶者、一定の親族が相続する場合は、評価額が軽減されますが、その適用範囲が拡大されます。この変更は減税に働きます。
    ●~今年)特定居住用宅地等の240㎡までは、税額が80%軽減されます。
    特定居住用宅地と特定事業用等宅地等の特例適用は最大400㎡までの限定併用です。
    ●来年~)特定居住用宅地等の330㎡までは、税額が80%減免されます。
    特定居住用宅地と特定事業用等宅地等の特例適用は完全併用されます。
  4. 未成年者控除
    これも若干ですが、減税です。
    ●~今年)6万円×20歳に達するまでの年数
    ●来年~)10万円×20歳に達するまでの年数
  5. 障害者控除
    同上です。
    ●~今年)6万円(特別障害者は12万円)×85歳に達するまでの年数
    ●来年~)10万円(特別障害者は20万円)×85歳に達するまでの年数の年数

相続税計算方法のステップ

相続税の計算方法は少々面倒です。

  • 相続財産目録を作成します。
  • 不動産に対して、小規模宅地等の特例、広大地評価等の適用により、相続税の課税価格を減額します。
  • 相続財産に以下の控除や加算を行い、課税価格を算出します。
    • 非課税財産、債務、葬式費用の控除
    • 生命保険等みなし相続財産(非課税枠あり)、3年以内の生前贈与、相続時精算課税適用分の加算
  • 相続税課税基準額から基礎控除を引きます。
  • 相続人が民法の規定による法定相続分どおりに相続したものと仮定して各人の相続額を算出します。
  • 各相続人の法定相続額を基準にして相続税率を当てはめ、各相続人の仮の相続税額を算出します。
  • 各相続人の仮の相続税額を合計して相続税の総額を求めます。
  • 相続税の総額を、実際に各相続人が相続した財産の割合に応じて按分し、各人の実際の相続税額を算出します。
  • その各相続人の相続税額に対して、以下の各種控除や加算を行うことにより、各人が実際に支払う相続税額が決まります。
    • 配偶者の税額控除、未成年者控除、障害者控除、既納付贈与税額控除、相続時精算課税制度による既納付税額控除
    • 1親等の血族と配偶者以外の相続税額の2割増し

相続税の節税方法

以下に、どのようにして相続税額を減らすか、その方法に関して簡単に記載しました。

  1. 小規模宅地等の特例の適用
    自宅土地を配偶者、一定の親族が継続して居住する場合は、一定の広さまで評価額が80%軽減されます。
  2. 住宅取得資金等の贈与による非課税枠の利用
    直系尊属から、子・孫の住宅の新築若しくは取得又は改築等の対価に充てる資金を非課税で贈与できます。
  3. 暦年1人110万円までの贈与税の非課税枠の利用
    相続開始3年以内の贈与は相続財産とみなされますので注意が必要です。
    税務署による否認の可能性があるので、生保の個人年金保険等の利用が確実です。
  4. 相続時精算課税制度
    2,500万円までの相続財産を相続発生より前に推定相続人に無税で贈与する制度です。
    直接的な節税にはなりませんが、相続人の住宅ローンを早目に返済すれば金利を軽減できます。
    110万円の暦年の非課税枠と一緒に利用はできません。
  5. 子孫等への1人当たり1,500万円の教育費の非課税枠の利用
    平成27年末までの時限立法です。信託銀行で取扱っています。
  6. 相続人1人当たり500万円までの生命保険の非課税枠の利用
    90歳6か月まで加入できる一時払い終身保険があります。
  7. 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除の利用
    婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又はその金銭を2,000万円まで無税で贈与できます。
  8. 配偶者の税額軽減制度の利用
    被相続人の配偶者の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは相続税がかかりません。
    1億6千万円又は配偶者の法定相続分相当額
  9. 養子縁組をすることにより、相続人が増え、基礎控除、生命保険の非課税枠などが大きくなります。
    このような目的の養子縁組も少なくありません。
  10. アパート等を立てることにより財産評価額を下げられます。
    アパートや貸家などの建物の評価は3割減になります。
    アパート、貸家等の敷地は、借地権割合と借家権割合を乗じた分だけ評価減になります。
  11. 必要な支出を生前に早目に行い、その使用価値を子、孫に引き継ぎます。
    墓地、家の改築、その他必要な支出を相続が発生する前に支出すれば相続財産を減らせます。

各種の相続税の節税を行うと、相続財産の配分が法定相続割合から大きく異なってきます。
遺言を遺し、その中で特別受益分などとして調整する、あるいは付言で説明するなどが必要になります。

(2014年 4月30日)