自筆証書遺言の内容が有効から無効へ

自筆証書遺言の内容が有効から無効へ

日経新聞11月21日付朝刊に、
斜線の遺言書「無効」 最高裁判決「故意に破棄」認定
という記事がありました。

遺言者自らが赤いボールペンで遺言書全体に斜線を引いた自筆証書遺言は有効か?

  • 遺言内容は、土地建物や預金などのほぼ全財産を長男に相続させる内容
  • 長女が「赤いボールペンで斜線を引いであるので無効」として、無効の確認を求めて提訴した。
  • 一審・広島地裁、二審・広島高裁は、「元の文字が判読できる程度の斜線では効力は失われない」として無効ではないと判断
  • 最高裁第2小法廷は、「赤いボールペンで文面全体に斜線を引く行為は、一般的には遺言の全効力を失わせる意思の表れとみるべきだ」として無効とした。

自筆証書遺言は、無効になるケースが良くあります。できれば公正証書遺言に、自筆証書遺言にする場合では少なくとも専門家に確認してもらうことが必要と言えます。

(2015年11月21日 日経新聞より)

公正証書遺言が急増

日経新聞の夕刊に、公正証書遺言が以下のように急増しているという記事がありました。

1971年 約15,000件
1980年 約30,000件
1990年 約42,000件
2000年 約61,200件
2012年 約88,100件

民法によるお仕着せの相続財産の分割でなく、自分の意思による分割をしたいということでしょう。公正証書遺言の他に、自筆証書遺言もありますので、実数はこれよりはるかに多くなるはずです。
新聞では、例えばということで、以下の3例を挙げています。

  • 夫婦2人で子どもはいない。疎遠な兄弟に財産を渡すのには抵抗があり、すべて長年連れ添った妻に残したい。
  • 共働きの事実婚の夫婦がパートナに財産を残したい。
  • 妻や子供のいない高齢者が、疎遠な親族に財産を渡すよりは親切にしてくれた高齢者支援団体に寄付したい。

もちろん、他にも多くのケースがあると思いますが、正しく遺言を遺すには民法の知識が欠かせません。公正証書遺言を作成するには、直接公証役場に出向く方法でも可能です。しかし、じっくりと相談して分割方法を決めたい場合は、弁護士、司法書士、行政書士といった法律系の専門家と相談する方が良いと言えます。

公証役場に払う費用は、相続財産が500万円超、1,000万円以下であれば17,000円です。専門家経由で行う場合は、それに3~5万円程度プラスになります。

(2013年9月30日 日経新聞より)

遺言の必要な人

  • 夫婦の間に子どもがいない
    →遺言がないと、親兄弟も相続人になり、配偶者が遺産の全部を相続できません
    ⇒配偶者に遺産の全部を相続させる遺言をします
    (親には遺留分があるので注意)
  • 配偶者が籍に入っていない内縁関係
    →遺言がないと、内縁(事実婚)の妻は相続できません
    ⇒遺言で財産を遺贈します
  • よく尽くしてくれた嫁に財産を分けたい
    →遺言がないと、嫁は相続人ではないので相続権がありません、友人なども同様
    ⇒遺言で嫁、友人などに遺贈します
  • 音信不通の子どもがおり、どこにいるのかわからない
    →遺言がないと、遺産分割協議が出来ず、不在者財産管理人などの手続きが必要
    ⇒遺産の分け方を遺言にしておけば、財産承継がスムース
  • 事業を長男に事業用の財産を相続させたい
    →遺言がないと、長男が事業用財産を相続できるかわからず、事業承継が難しくなる
    ⇒遺言で各相続人が取得する財産を指定しておけば安心
  • 障害のある子どもの将来が心配
    →遺言がないと、他の子や施設などがしっかり面倒をみてくれるかどうか心配
    ⇒遺言で負担付きの遺贈する、あるいは後見人を指定することが出来る
  • 暴力をふるうドラ息子に財産を渡したくない
    →遺言がないと、ドラ息子にも他の相続人と同じように相続する権利がある。
    ⇒遺言で非行の相続人を廃除することが出来る
    (以後によらない廃除も可能)
  • 相続人がいないので遺産を社会のために役立てたい
    →遺言がないと、債権者への精算後、残余財産は国家に帰属する
    ⇒遺言で特定の団体に寄付したり、使用方法を指定したりすることが出来る

(2011年6月 6日)

自筆証書遺言の簡単な書き方

遺産相続でもめるケースが多くなっているようです。本人が亡くなれば相続人が少しでも多く遺産を受け取りたいと考えるのは自然です。遺産相続でもめることが多くなってきたのには以下のような背景があるようです。

・一般の人にも不動産、預金といった相続する遺産が増えてきた。
・遺産相続をする世代の人々の生活が厳しくなってきている。
・長男が相続すべきという考え方と子供が公平に相続すべきという考え方が並存している。

遺産相続はもめて当然。もめない方が不思議です。
遺言は民法の規定に優先します。自ら責任を持って自分の財産は引継がせたいものです。遺産のあることが紛争の種にならないよう遺言を残すことが必要です。

そこで、最も簡単な遺言書の書き方です。

自筆証書遺言の要件

主に3種類ある遺言書の方式のうち、最も簡単なものは自筆証書遺言です。
自筆証書遺言を書く上での絶対要件は、

全文自筆、捺印、日付

の3点です。
この要件が一つでも欠けると無効になります。現実問題、折角遺言が見つかっても無効になるケースが少なくありません。

1)全文自筆:一部でもPC等の出力は不可です。手書きです。当然、鉛筆
ではなく消しにくいボールペン、毛筆等で書きます。
2)捺印:認印でも構いませんが出来れば実印です。とにかく印鑑が捺して
ある必要があります。
3)日付:明確に日付が特定できる記載が必要です。西暦でも和暦でも、年
月日を記載しておけば間違いありません。

自筆証書遺言の保管方法

紙は便箋で構いません。上記3点を満足させた遺言を書いた紙を封筒に入れ封をします。遺言書は家庭裁判所で開封されるものです。親族であっても勝手に開封すると罰せられます。そのためには開封されないような工夫が必要です。封筒の表に「遺言書」と書き、裏に「開封せずに速やかに家庭裁判所に届けてください。」と朱書きすると良いかもしれません。あるいは封筒を2重にし、外封筒に封緘された遺言書とその朱書きした書面を入れておくのも良いかもしれません。

もう一つ重要なのは亡くなった時にすぐに見つかることです。すぐに見つかるような引き出しに入れておく、信頼できる親戚に預けておく、相続人の一人に預けるなどがあります。簡単に見つかって改ざんされるのもまずいですし、死後すぐに見つからないのもまずいです。

”自筆証書遺言の具体例’
書く際は、誰に何を相続させるのかを具体的に、明確に書く必要があります。事情が変わった時、気が変わった時は新しい日付で再度書き直せば良いです。古いほうは破棄する方が良いですが、破棄しなくとも新しい日付の方が優先されます。

以下、サンプルとして簡単な例を示します。
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遺言書

遺言者、中村太郎は、下記の通り遺言する。

1.妻、中村花子に、次の不動産を相続させる。
1)所在、地番、 ........
<宅地を登記簿通りに記載する>
2)所在、家屋番号、 ........
<建物を登記簿通りに記載する>

2.長男、中村一郎に、次の預貯金を相続させる。
1)○○銀行○○支店 普通預金 口座番号123456

3.長女、中村一子に、次の預貯金を相続させる。
1)△△銀行△△支店 普通預金 口座番号123456

4.長男、中村一郎に、上記記載の不動産、預貯金を除く一切の財産を相続
させる。

平成XX年XX月XX日
中村太郎 印
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(2009年12月10日)

遺言とは

日経平均株価が急落しているとは言え、日本は徐々にストック社会に移行しています。結果として、人が亡くなる時、何らかの資産を残してしまうことになります。かくして、相続が発生することになります。誰でも黙っていてお金をもらえるのであれば10万円でも多いほうが良いと思うのが人情です。何もしなければ、折角残した資産・遺産で子供、親族などの関係にひびが入りかねません。

立つ鳥、後を濁さず。 遺言をして「立派な旅立ちであった」と言われたいものです。

遺言には3種類あります。
1)自筆証書遺言
2)公正証書遺言
3)秘密証書遺言

1)は自分で勝手に書く方法です。費用はかかりませんが、法的安全性が低いです。2)は法的安全性は高いですが、費用がかかり、“大げさ”と思われがちです。3)は1)と2)の中間で、あまり採用されていないようです。

1)は全文自筆、押印、日付記載など要件がいくつかありますが、勝手に書いて、法的要件を満たさないため、無効になるケースが少なくないようです。1)を選択する場合はしっかり参考書を読むか、専門家に依頼する(数万円から)のが良いでしょう。

2)は公証役場というところに行って、書いてもらいます。遺言内容を公証人に口頭で言う必要がありますし、証人が2名必要なので、何となく敷居が高いです。費用も遺産総額と相続人の数などにもよりますが、例えば1億円で5万円~8万円程度です。

3)は自分で勝手に書くものの、保管だけは公証役場にお願いする方法です。

さて、どの方法で書いたら良いでしょうか?

とりあえず、すぐ亡くなる予定のない方は、1冊本を買って勉強し、「自筆証書遺言」を書くことをお勧めします。近い将来、亡くなる可能性のある方は、法的安全性を優先させ、まず専門家に“無料相談”してみるのが良いと思います。自分に向いた方法を決められるはずです。なお、遺言の専門家とは一般に弁護士か行政書士です。行政書士の方が費用がはるかに安いのでお勧めです。

(2008年3月25日)