譲渡担保

譲渡担保とは、目的物の所有権その他の財産権を、法形式上債務者または第三者(物上保証人)から債権者に移転して債権担保の目的を達する制度です。

主に形式面を重視して考えるのか(所有権的構成)、実質面を重視して考えるのか(担保権的構成)という2つの見解に大別することができます。

所有権的構成
譲渡担保権者は、目的物の所有権を(対内的にも対外的にも)取得しますが、譲渡担保権設定者に対して、取得した権利を担保目的を超えて使用・処分しない(債権的な)義務を負います。

担保権的構成
譲渡担保の目的物の所有権は依然として設定者に帰属し、譲渡担保権者は、目的物について担保権を有するにすぎません。

2011年6月26日(日)

60歳台前半の在職老齢年金の改正案

5月21日の日経新聞の朝刊に、「60歳代前半の就労を促進、年金減額幅を縮小 厚労省案全容」という記事が掲載されていました。

現行制度では60~64歳の人が働きながら厚生年金を受け取る場合、年金と給与の合計額が月額28万円を超えると、28万円を超えた分の半分だけ受け取る年金が減り、46万円超では給与の増加分だけ年金がカットされます。
厚労省は給与と年金の合計額が46万円を超えるまで、年金を減額しない制度に変える方針とのことです。
高齢者の就労を促すのが目的ですが、確かにこの差は大きいです。継続就労に対する相当のモチベーションアップになりそうです。

2011年5月28日(土)

基礎年金の繰上げ受給は得か損か?

昭和24年4月2日生まれ以降の方は基礎年金は基本的に65才にならないと受給できません。

しかし、繰上げ受給という制度があり、金額が少なくても良いから早く受給したいというニーズに対応しています。
繰上げ受給すると一生涯年金が減額されてしまいます。
1ヶ月繰上げると0.5%減額されます。1年で6%。5年間繰上げると毎月30%減額された年金が一生涯続きます。普通に65才から受給したとした人に何才で抜かれてしまうのかという疑問が湧きます。計算上、16.6年後です。つまり76.6才を超えると受給総額で65歳受給のケースに追い抜かれてしまいます。何を持って得と考えるか損と考えるかは人それぞれです。なかなか難しい判断です。

繰上げ受給をしてしまいますと、老齢基礎年金の受給者になってしまいます。
それにより発生する制約もあります。留意点を整理すると以下のようになります。

  • 一度繰上げ受給を請求(裁定請求)すると、取り消しや変更ができません。
  • 減額された支給率が原則、一生涯続きます。
  • 繰上げ受給後、国民年金に任意加入できません。
  • 繰上げ受給後、障害者となっても障害年金は受給できません。
  • 繰上げ受給後、寡婦年金の受給資格者となっても受給できません。
  • 繰上げ受給後、遺族厚生年金の受給資格者となった場合、65歳まではどちらかの選択となり併給はできません(65歳以降は併給可)。

2011年4月24日(日)

停止条件と解除条件

昨日、以下のようなニュースがありました。

「政府は、福島第1原発の放射性物質漏えい事故の影響で、福島県産のホウレンソウとカキナに対して出荷停止を行っていたが、放射性物質が3週連続して暫定基準値を下回り、国が示した解除条件を満たしたので出荷停止を解除した。」

民法には、停止条件と解除条件というものが出てきます。最初はこれが分かりにくいです。分かったと思うとまた忘れて混乱してしまいます。

  • 停止条件
    ある条件が成就すると一定の法律効果が発生する、そのような条件を停止条件と言います。「現在有効ではない法律効果をそのまま『停止』させておくための条件」、と覚えるようにしています。
    例えば死亡すると贈与が発生するような遺贈の場合の死亡が停止条件になります。
  • 解除条件
    ある条件が成就すると一定の法律効果が消滅する、そのような条件を解除条件と言います。「現在有効である法律効果を『解除』するための条件」と覚えるようにしています。
    今回のニュースが良い例です。「3週連続で放射線物質が暫定基準値を下回る」と出荷停止を解除する場合の「3週連続で放射線物質が暫定基準値を下回る」というのが解除条件になります。

AならばBという関係は同じですが、Bが法律効果を発生させるのか消滅させるのかで分けています。

2011年4月10日(日)

売買等の取引で物(動産)を引渡すということ

民法は私人間の争いを解決するための法律です。私人間の争いは売買等の取引で生じることが多いです。取引の多くは何らかの物を交換します。交換するには、物を相手に渡すという行為が必要です。動産に関して、占有状態をAからBに移転するということは重要な行為になります。

民法では、所有権を変動させるために行う動産の引渡し(占有の移転)には4種類あるとしています。

  • 現実の引渡し:最も一般的でAからBに現実に引渡して所有権を移します。
  • 特殊な引渡し
    • 簡易の引渡し:貸しているなどで既にBの手元にあるものをAがBに引渡したことにして所有権を移します。
    • 指図による占有移転:預けているなどでCの手元にあるものを以後Aのためではなく、Bのために占有するように指示して所有権を移します。
    • 占有改定:Aの手元にあるものをそのまま占有を継続するものの、以後の所有権はBに移します。

特殊な引渡しによる所有権の移転は観念的なもので、そう言われればそうかなと理解はできます。ただ、現実の取引契約では往々にしてありそうなことです。と同時にトラブルも発生しそうです。特に占有改定はそうです。外見的には元の所有者のところにそのまま存在して違いが見えないので、争いが起きそうな可能性が非常にありそうです。

2011年4月 8日(金)

普及し始めた成年後見制度

成年後見制度が施行されてから10年が経過しました。成年後見制度は介護保険制度と同時に2000年4月に施行されました。介護保険は、色々な問題はあるにしても人々の生活に深く定着したと言えますが、成年後見制度はまだそれほど定着したとは言えません。しかし、それでも新聞、雑誌等で目にする機会が増えてきました。

今回は、自分が、あるいは周りの人が認知症等になり、判断能力が衰えたときに役に立つ成年後見制度の概要です。

介護保険制度は、身体の自由が利かなくなったときに身体に対して様々なサービスをする制度です。それに対して、成年後見制度は、判断能力が衰えたときに財産等に対して様々なサービスをする制度です。10年前に導入された介護保険ですが、それまでのお年寄りに対する措置という考え方から、介護サービスを自ら契約するという考え方に大きく転換しました。ところが、認知症の人は自ら契約をすることができません。そこで成年後見人を通して契約するという考え方になりました。これらの理由から、介護保険制度と成年後見制度は車の両輪とよく言われています。

認知症などにより判断能力が低下したり、欠けたりすると、必要な財産管理や生活管理、療養看護等に関して自分で決めることが困難になります。
そのような場合に、

  • 家庭裁判所の監督の下に
  • 本人の自己決定権をできるだけ尊重しながら
  • 本人の権利や利益を保護するとともに
  • 本人が持っている能力を活用して
  • 普通の生活が維持できるように支援していくこと

が必要です。
そのための制度が成年後見制度になります。

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があります。

法定後見制度

本人の判断能力が既に低下してしまった場合に、本人、家族等が家庭裁判所に申立てをする制度です。本人の判断能力の程度に応じて以下の3つに分かれます。

  • 後見:常時、判断能力を欠く場合
  • 補佐:判断能力が著しく不十分である場合
  • 補助:判断能力が不十分である場合

家庭裁判所はそれぞれに対応して、成年後見人、保佐人、あるいは補助人を選任します。申立ての際に後見人等の候補者を予め決めてから申立てをする場合もありますが、候補者がいない場合は、家庭裁判所に選任してもらいます。そのため、家庭裁判所は後見人の候補者名簿を保有しています。
いずれの場合も家庭裁判所が本人にとって適任と思われる人を選任しますので、必ずしも申立て時に提出した候補者が選任されるわけではありません。家庭裁判所が第三者を法定後見人等として選任する場合には、弁護士、司法書士、社会福祉士、行政書士などを選任します。

後見人等の役割の中心は、本人の財産管理になるので、普通考えると子供などの家族が後見人等になるように思えます。実際、7割程度は家族が後見人等になりますが、残りの3割程度はそうではありません。家族間で本人の財産に関してトラブルになっている、疑心暗鬼になっている、あるいは近くに適切な家族がいないなど、様々なケースがあり、家族以外の第三者が後見人等になっています。

後見人等は、本人のために、財産管理(費用支出、不動産管理・売却等)や治療、介護、老人施設への入居に関する契約締結等をします。重大な責任を負いますので、行った職務内容を家庭裁判所に報告します。それらの活動に対する報酬は、第三者後見人等の場合、本人の財産から支払われることになります。

成年後見制度が施行される前は、禁治産、準禁治産という制度がありました。本人の判断能力という観点からは、禁治産者が被後見人、準禁治産者が被保佐人に対応します。成年後見制度では、更に被補助人というもっと症状の軽い人をも対象にしました。しかし、名称もさることながら、以前の禁治産制度と現在の成年後見制度では、制度そのものの発想が根本的に異なっています。
以前は、判断能力が低下した時に、
 「裁判所は、あなたが自らの財産を治めることを禁じます。」
という観点から制度設計がされていましたが、
現在は、
 「裁判所は、後見人を選定し、後見人によって、あなたが自らの財産を使いながら、人間らしい生活ができるようにサポートします。」
という考え方に変わりました。

任意後見制度

法定後見制度は判断能力が不十分になってからの制度ですが、任意後見制度は判断能力が十分なうちに、判断能力が不十分になることを想定して予め契約する制度です。本人が、予め信頼できる人を任意後見人と定め、判断能力が不十分になった時に支援して欲しい内容を公正証書による任意後見契約によって定めておきます。判断能力があるわけですので、契約内容は自由になります。しかし、契約の効力は、本人が判断能力を欠く常況になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時に生じます。自由契約だけに任せてしまうと、任意後見人が判断能力のなくなった被後見人の財産を害する恐れがありますので、このように家庭裁判所の監督が及ぶような仕組みになっています。

しかし、現実にはいつ判断能力が衰えるかわかりません。その意味では常日頃から本人と任意後見契約をした受任者がコミュニケーションを図る必要があります。そのため、本人が判断能力の十分なうちは見守り契約、あるいは財産管理等委任契約を締結、発効させ、いざというときにスムースに任意後見契約に移行させるのが一般的になっています。もし亡くなるまで判断能力を欠く常況にならなければ、任意後見契約が発効しないことになります。任意後見契約は転ばぬ先の杖と言われますが、任意後見契約を締結されるような方は用意周到な方なので、転ばない(呆けない)とも言われます。逆説的です。
なお、任意後見には、法定後見のような補佐、補助の制度はありません。

成年後見制度の最も重要なポイントの一つが任意後見の導入です。判断能力がなくなってから措置をしてもらうという考え方から、判断能力がなくなった時にして欲しいことを自己決定して予め契約をするという非常に大きな考え方の転換がなされています。

任意後見契約と遺言書を組み合わせることにより、

  • 認知症になったときは、自分の財産を自分の意思で自分のために使い、
  • 亡くなったときは、残った自分の財産を自分の意思で相続させる

ことができるようになります。

成年後見登記制度

成年後見等の審判を受けているか、任意後見がされているか、誰が成年後見人等なのか、その成年後見人等の権限がどうなっているかなどを管理するコンピュータシステムが成年後見登記制度で、東京法務局後見登録課が管理しています。これにより、従来の禁治産者、準禁治産者のように戸籍に記載されることがなくなりました。

まとめ

成年後見制度の理念には、

  • 自己決定権の尊重
  • 残存能力の活用
  • ノーマライゼーション、QOLの向上

などがあります。
高齢化に伴い、今後ますます増える認知症の人をサポートする仕組みを構築し、特別視しないで社会に参画してもらおうという考え方です。
非常に貧しい生活をしていた人なのに、亡くなってみると現金で3,000万円残されていたという話がありました。あるいは、残された遺産がほとんど行き来のなかった甥、姪に相続されたり、悪質商法、振り込め詐欺などに騙されたりなどの話もあります。歳を重ねると自分のお金を自分のために有効に使うことが難しくなってきます。それには判断能力が必要です。そのための制度が成年後見制度だと言えます。

(2011年 2月21日)

特別支給の老齢厚生年金

前回は在職老齢年金制度に関して簡単に書きました。在職老齢年金制度には60歳台前半のもの、及び65歳からのものの2種類あります。60歳台前半の在職老齢年金は60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金を受給する人に適用されます。その60歳台前半の老齢厚生年金を受給できるかどうかということは本人にとっては一大事です。特に今後10年ほどの間に厚生年金の受給権を取得する人は知っておく必要があります。

今回はその60歳台前半の老齢厚生年金に関してです。

特別支給の老齢厚生年金を受給する人

60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金には定額部分と報酬比例部分があります。今後、受給権を取得する男子で新たに定額部分を受給する人はいません。昭和24年4月1日生まれまでの人が対象でした。その方々は既に60歳を過ぎて報酬比例部分の受給権が発生しています。女子は今後60歳になる昭和29年4月1日生まれまでの人は短期間ではありますが定額部分を受給することができます。なお、受給権は要件を満たせば当然に発生しますが、裁定請求をしないと支給されません。また、当然に受給権が発生すると同時に、当然に5年の時効も進行し始めます。

次に、報酬比例部分を受給できる男子の生年月日とその開始年齢です。
60歳から受給:~昭和28年4月1日生まれの人
61歳から受給:昭和28年4月2日~昭和30年4月1日生まれの人
62歳から受給:昭和30年4月2日~昭和32年4月1日生まれの人
63歳から受給:昭和32年4月2日~昭和34年4月1日生まれの人
64歳から受給:昭和34年4月2日~昭和36年4月1日生まれの人
女子は5年遅れになります。
60歳から受給:~昭和33年4月1日生まれの人
61歳から受給:昭和33年4月2日~昭和35年4月1日生まれの人
62歳から受給:昭和35年4月2日~昭和37年4月1日生まれの人
63歳から受給:昭和37年4月2日~昭和39年4月1日生まれの人
64歳から受給:昭和39年4月2日~昭和41年4月1日生まれの人

特別支給の老齢厚生年金は経過措置

男子で昭和36年、女子で昭和41年のそれぞれ4月2日以降に生まれた方は経過措置が終了して、厚生年金、(国民)基礎年金共に65歳からの支給になります。この経過措置は、厚生年金の受給開始年齢を60歳から65歳に引き上げた際、急激に変更すると国民の生活設計に支障が出てしまうので、経過的に激変緩和措置を設けたものです。特別支給なので65歳になると終了します。65歳になると全く新規に本来の厚生年金の裁定請求をする必要があリます。金額的には連続性が図られていますが、制度的には連続性のあるものではありません。

老齢厚生年金を受給するための被保険者期間

年金を受給するには被保険者期間が(例外はありますが)基本的に25年必要です。会社員で厚生年金保険料を支払っていた期間(第2号被保険者)、自営業で国民年金保険料を納めていた期間(第1号被保険者)、専業主婦であった期間(第3号被保険者)の合計で構いません。但し、会社で厚生年金保険料を支払っていた被保険者期間が1年以上必要です。

会社員期間が短いからと受給しない人がかなりいるようですが、もったいないです。もらっていた給料によりますが、会社員期間1年当たり2~3万円程度の年金をもらえるはずです。なお、65歳からの老齢厚生年金は被保険者期間が1ヶ月しかなくても受給できます。また、よく言う年金の繰上げ、繰下げは65歳から支給される厚生年金、(国民)基礎年金が対象です。

老齢厚生年金の退職時改定

特別支給の老齢年金を受給する人が会社勤めを続けると、老齢厚生年金を受給しながら厚生年金保険料を支払っていることになり、少し変な感じがしなくもありません。当然とも言えますが、支払っている保険料により将来受給できる厚生年金が増えることになります。退職1ヵ月後に厚生年金の受給額は再計算され、増額されることになります。しかし、厚生年金は増えても(国民)基礎年金部分は60歳を超えると受給額が増えません。60歳を超えると第2号被保険者でなくなることによりますが、現実的にはその分は経過的加算という名称で65歳からの本来の厚生年金に加算されます。

在職老齢年金制度

少し、在職老齢年金制度に話を戻します。
在職老齢年金の制度で年金を減らされない方法はないかと思いたくなりますが、会社は個人別の年金保険料のデータを提出していますので無理です。現在は全てコンピュータで個人別に集計されていますので逃れることは出来ません。会社員として働いて厚生年金保険の被保険者になるから在職老齢年金により減額されるわけです。厚生年金保険の被保険者にならなければ在職老齢年金制度の対象にならず、減額されることもありません。以下のような方法があります。
– 短時間労働者になる。一般的には、通常の労働者の概ね4分の3未満の労働時間であれば厚生年金の適用除外となります。
– 共済年金制度の事業所で働く。例えば学校の教師などです。
– 厚生年金保険適用除外の事業所で働く。小規模の個人事業などです。
– 自ら個人事業主となる。
65歳からも仕組みは違うものの在職老齢年金制度がありますので以上のことは同じように当てはまります。

年金の現実的な金額

60歳台前半の報酬比例部分の年金額は基本的に65歳からの本来の老齢厚生年金の額と同額です。現役時代の給料にもよりますが、大多数の人の年金額は120万円から180万円程度の間です。もし基礎年金が満額の約80万円受給できたとしても、200万円から260万円です。いわゆる手取りではなく、健康保険料などがそこから引かれるのでかなり少ない金額と言えます。これからはあまり年金に期待することができません。少し早めに計画的な行動を起こした方が良いかもしれません。

(2010年 6月13日)

在職老齢年金

いつの間にか年金を考える年齢になりました。もらえる年金であればもらいたいと思いますが、一方、働けるのであれば働きたいとも思います。ただ働き続けると年金が減らされるという話も聞きます。働き続けたいけれど年金も減らされたくない。悩ましいところです。

そこで今回は働いていると減額されてしまう年金の話です。

被用者(会社員)として働いて報酬を受けていると減額されてしまう年金を在職老齢年金と呼びます。在職老齢年金の趣旨は、「元気で働いて給料をもらっているのだから年金は少なくても(もらえなくても)良いじゃないか」ということです。確かにそうも言えますが、給料から相当な金額の年金保険料を払っていたのでしっかりともらいたいという気持ちもあります。
ところで、在職老齢年金には、

60歳台前半の在職老齢年金と
65歳からの在職老齢年金

の2種類あります。

減額対象となる年金

まず大前提として、減額調整されてしまうのはあくまでも厚生年金です。(国民)基礎年金は減額されません。全く無関係です。またいわゆる3階部分の厚生年金基金も対象外です。ここからは、断りがない限り年金とは厚生年金を意味します。年金を減らされてしまうには、そもそも年金の受給権がないといけません。60歳台前半の在職老齢年金制度の適用を受けるには、60歳台前半に支給される特別支給の老齢厚生年金の受給権が必要です。

特別支給(60歳台前半)の老齢厚生年金

老齢厚生年金の受給開始は(国民)基礎年金と同様に既に65歳になっています。但し、まだ生年月日に応じて支給開始年齢を60歳から65歳に引き上げている経過措置の最中で、生年月日によっては65歳前から特別に厚生年金を受給できている人がいます。また今後も受給できる人がいます。その年金を60歳台前半の特別支給の厚生年金と呼びます。昭和36年4月1日生まれまでの男性(女性は昭和41年4月1日生まれまで)は受給期間は別として、60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金を受給することが出来ます。そして、その際会社から受ける報酬額との関係で年金を減額調整される可能性があるということになります。

老齢厚生年金の額

次に老齢厚生年金の受給金額です。
60歳台前半の特別支給の厚生年金には定額部分(65歳からの(国民)基礎年金に相当)と報酬比例部分(65歳からの本来の厚生年金に相当)があります。今後新規に年金の受給権が発生する人には、若干の女性を除いて定額部分を受給できる人はいません。よって、ここでは報酬比例部分を中心にして書くことにします。この金額は65歳からの本来の厚生年金の金額とほぼ同額で、現役時代の報酬額と勤務期間で決まってきます。更に生年月日によって乗率も異なっており計算がやや複雑です。ただ、今後受給権が発生する人で40年間厚生年金保険料を支払ってきた場合には、受給できる老齢厚生年金の報酬比例部分の金額は、ほぼ月額10万円から15万円の範囲に収まると言えます。そこで、以下では年金月額を13万円と仮定することにします。

60歳台前半の在職老齢年金

ここからやっと本題です。
年金の月額とボーナス込みの平均報酬月額相当額(会社からの給料)の合計額が28万円までであれば、年金は減額されず全額受給できます。年金月額を13万円と仮定すると、ボーナス込みの平均月収が15万円までであれば丸々年金を受給できることになります。年金と月給の合計で28万円、年額336万円というのは現役並み所得ということでよく登場する金額です。なかなか微妙な金額設定です。平均月収が15万円を超えたところから徐々に年金が減額されていきます。計算方法は結構複雑ですが、年金月額が13万円の場合であれば平均月収41万円の時点で年金が全額支給停止になります。

65歳からの在職老齢年金

60歳台前半の在職老齢年金の制度は60歳台前半の特別支給の厚生年金と共に終了します。65歳からは本来の老齢厚生年金が始まりますが、それと共に今度は65歳からの在職老齢年金制度という異なる支給調整が始まります。今度は、合計が48万円までであれば年金は全額支給されます。年金を13万円と仮定すると、平均月収35万円までであれば年金が減額されません。こちらの計算式は単純で、合計で48万円を超えるとその2分の1に相当する金額の年金が支給停止されます。そして、年金が13万円の場合であれば、月収が61万円時点で全額支給停止になる計算です。この支給調整は70歳以降もずっと続きます。

どうにも年金は複雑です。少ない文字数で厳密に書くのは不可能です。とりあえず在職老齢年金の基本的なイメージだけでも持っていただければと思います。考慮事項等、周辺の事項がかなり書きもれていますので残りは次回にします。

参考

つい先日、ある意味で消えていた年金が復活しました。
社会人になって入社した会社では厚生年金基金がありました。退職する時に年金ではなく一時金を選択受給しましたので、その基金から年金は受給できないものと思い込んでいました。転居したこともあり、その基金からは何の連絡も受けていませんでした。ふと気になり調べたところ、既にその基金は解散しており、資産は企業年金連合会に引き継がれていました。電話して調べてもらったところ、”ない”と思っていた年金が現れてきました。実は、厚生年金基金は厚生年金の代行部分と加算部分に分かれており、一時金で受け取ったのは加算部分のみで、厚生年金の代行部分が受給できることが分りました。実はこの基金の代行部分が年金受給漏れの一つの典型的なパターンのようです。年金制度は複雑です。知らないと損をする可能性があります。

(2010年 5月16日)

ADR(裁判外紛争解決手続)

世の中には様々な揉め事、紛争があります。社会の仕組みが複雑になり、貧富の差が大きくなり、そして権利意識が高まるにつれ、今後もますます紛争が多くなってくると思われます。

ところで、紛争解決に関わる用語には、
裁判、仲裁、調停、あっせん、和解、示談
といったようなものがあります。ただ、裁判は別として、それらの違いが今ひとつ分りにくいところがあります。あるいは何となく分っているようでも、人にその違いを説明出来ないのではないでしょうか?

今回はそれを整理してみたいと思います。

まず裁判ですが、これは別格です。裁判所で裁判官が判決を下す司法手続きで、どなたでもご存知の明確な紛争解決方法です。

仲裁、調停、あっせん

次の仲裁、調停、あっせんですが、これらは紛争解決方法として、一括りにされることが多いです。裁判所以外の民間の紛争解決機関でこれらをセットにして行っているところもあります。基本的に仲裁、調停、あっせんは、裁判にせずに当事者同士で話し合いにより解決する方法になります。その中では仲裁が最も裁判に近く、あっせんが最も当事者同士の話し合い解決に近いといえます。調停はその中間になります。ただ実際は各機関で独自に定義、分類しており、その違いは一意的ではありません。特に調停とあっせんは概念が非常に近く、明確に分類することは困難です。

仲裁

仲裁は、両当事者が仲裁人の判断に従うという前提で話し合いをします。仲裁委員が仲裁判断を下し、その判断は両当事者を拘束します。仲裁判断は確定判決と同様の効力があり、裁判でいう控訴、上告が出来ず確定してしまいます。

調停

調停では、調停委員が両当事者の話し合いのプロセスをコントロールして、お互いが合意するように誘導します。機関によっては調停案を提示するところもありますが、積極的には調停案を提示せず、当事者から解決案を引き出すことを基本的な方針にしている機関もあります。そして、うまく合意できれば、その合意した内容で調停委員も含めた合意書を作成し、取り交わします。しかしその文書自体には拘束力はありません。もし合意した当事者が合意内容を実行しない場合は裁判にして、その合意書を有力な証拠として提出することになります。

あっせん

あっせんと調停の線引きは明確ではありませんが、一般にあっせんの方が調停よりも更に両当事者の話し合いのウェイトが高くなります。あっせん員は話し合いの場を提供するような役割になります。イメージ的に言えば、調停の場合は調停委員が間に入って話し合いをするのに対し、あっせんの場合は両当事者が直接話し合うような違いがあります。あっせん案を提示するか、あっせん員は何名で行うかなどは、調停と同様にそれぞれの機関で取り決めをしています。合意した場合の合意書作成も調停と同様です。

和解

和解は、仲裁、調停、あっせんと違って、話し合いで解決された状態を言います。話し合いの目的あるいは結果であって、紛争解決の手段、方法ではありません。裁判や仲裁のように第三者が判決、判断を下す方法ですと、結果として、和解したというのは言いにくいですが、話し合いが基本の調停、あっせんであれば、目的が和解であり、結果として和解したと言えます。例えば、和解(のための)調停、調停(による)和解と言えることになります。和解は民法上に規定のある一種の契約で、いつでもすることが可能です。仲裁手続き中でも、裁判の直前でも裁判中でも、いつでも和解は可能です。

示談

示談は両当事者の話し合いで解決(和解)する際の一つの類型です。一般には、一方当事者の不法行為を賠償金(示談金)を払って解決(和解)することを示談と言います。従って、調停、あっせんなどの話し合いの結果、合意した際に作成する文書のタイトルは合意書だけでなく、和解書、示談書などにすることもあります。

裁判所における調停

ところで、簡易裁判所、家庭裁判所などでも調停を行っています。司法でも出来るだけ裁判ではなく、話し合いでの解決を図ろうとしていることになります。裁判所に訴えを持ち込んでも、事案によっては裁判より先に調停をすることが義務付けられているものもあります。裁判所の調停は確定判決と同等の効果を持ち、民間の調停とは異なります。

ADR(裁判外紛争解決手続)

さて、最後になりますが、タイトルのADRです。ADRとはAlternative Dispute Resolution の略称で、裁判以外で紛争を解決する手続きを意味します。最近一種のブームになっており、各業界団体、士業などで盛んにADRの認証を取得し、活動を始めています。日本のADR法では上記の民間でおこなう調停とあっせんを規定しています。仲裁には仲裁法という別の法律があります。

(2009年2月12日)

個人の債務整理

借金苦で自殺したり、一家離散ということがあります。悲惨なことです。本人に責任のある場合もあるかとは思いますが、人の弱みにつけ込んだ高利貸しが跋扈していることの方にこそ問題があると思います。サラ金は言うに及ばず、カード会社や銀行までもがこのゼロ金利時代に高金利でお金を貸し出しています。

借金が多くても思い詰めることはありません。悪いのはむしろ高利貸しです。多重債務で打つ手がないと思っても極端に悲観することはありません。人生はゲームです。最初のゲームに負けただけです。場をクリアしてもう一度ゲームに挑戦すれば良いだけです。

借金・債務を整理してしまいましょう。

債務整理のハードルは低くなっています。債務整理を行うと周囲に知られてしまい、恥ずかしいし、第一再起不能になるのではないかという危惧があるかと思います。しかし実際はそうでもありません。

  • 確かにブラックリストには載りますが、特に周囲の人が見れるわけでもありませんし、何が起きるわけでもありません。ただ、5年から10年の間、借金をしたり、カードを作成したりすることが出来なくなるだけです。
  • 官報に掲載されるケースもありますが、一般の人はそれほど見るものではないでしょう。
  • 特定の職業に就けないことがあります。ただ、弁護士や会計士などのような職業で、あまり実害はありません。

つまり、基本的には会社にも近所にも親戚にも知られずに債務整理が出来るわけです。

具体的に、個人の多重債務を整理する、法的債務整理方法には以下の4種類があります。

  1. 自己破産
  2. 民事再生
  3. 任意整理
  4. 特定調停

まず、どの方法をとるにしろ、専門家に届け出て、手続きに入ります。しかし、「自己破産」と「特定調停」に関しては直接、裁判所に申し出る方が多いようです。届け出た段階で、すぐに債権取立て行為の制限と返済停止が可能です。つまり、テレビに出るような脅しがなくなり、とりあえず平穏な生活を取り戻せることになります。その後の手続きは、上記1)から4)のどの方法を選択するかで異なってきます。

1.の「自己破産」では、必要生活費の3か月分を残して、全ての財産を清算します。その代わり全ての債務が帳消しになります。ある意味、手っ取り早いですが、車も家も手放すことになり、失うものも多いことになります。

残りの3つの方法は、そこまで極端な方法ではなく、ソフトランディングと言えます。利息制限法による超過利息引き直し計算をして、元本を減額します。そして、

2.の「民事再生」では、更に残った債務総額を5分の1、あるいは10分の1(債務額によって異なる)にして3年で返済します。また、住宅ローンがある場合は、住宅ローン特則を利用して、弁済の繰り延べが可能です。但し、住宅ローンの元金、利息の免除はありません。

3.の「任意整理」は、債券、債務者で私的交渉をして合意をします。超過利息以外の元本減額はありませんが、将来利息は免除されます。

4.の「特定調停」は、調停ですので裁判所で調停委員の下、債権、債務者で話し合いをする方法です。3)の任意整理を裁判所を通して行うという意味合いになります。但し、過払い金の回収は行いません。

どの方法を選択するかがポイントになります。

「自己破産」は一番過激な方法です。利息制限法による超過利息引き直し計算をしてもあまりに借金総額が多く、とても返済し切れないようであれば、思い切って裁判所に直接「自己破産」の届けをする方が話は早いです。「民事再生」では、超過利息引き直し計算をし、更に圧縮をした債務金額と住宅ローンを返済することになります。その返済が何とか可能であれば、専門家への依頼費用を負担しても「民事再生」が良いでしょう。

「民事再生」は主に住宅ローン破産者向けに用意された方法です。

「任意整理」は、利息制限法による超過利息引き直し計算により、逆に過払い金の回収が期待できるときに有効です。

「特定調停」は、過払い金の回収までは期待できないが、超過利息引き直し計算で返済可能な額にまで減額できるときに有効で、専門家に依頼せず、直接裁判所で手続きをします。

「自己破産」と「特定調停」に関しては、自ら直接裁判所で手続き出来ますので数千円~1万円程度の費用で済みます。ただ、その分、自分の時間を使うことにはなります。「民事再生」と「任意整理」に関しては専門家に依頼しないとまず無理です。専門家に任せることで気は楽になりますが、その代わり数十万円の費用がかかります。過払い金の回収があればそれで賄うこともできますが、もし債務が残り、返済を継続するのであれば、その専門家への依頼費用を工面しないといけないので注意が必要です。一般に「民事再生」の方が手間がかかり、「任意整理」より高額です。

債務整理の専門家は、基本的には弁護士か認定司法書士ですが、当然ながら司法書士の方が費用は安いと言えます。ただ、中には悪徳とも呼べる人がいて、2次被害に合うことがあるので十分な注意が必要です。

もし、周囲に借金返済で困っている人がいたら、色々な方法があるから決して悲観しないようにとアドバイスしてください。

※超過利息の引き直し計算:利息制限法の上限金利(10万円~100万円の場合は18%)を超える利息は無効です。例えば出資法の上限金利(29.2%)で利息を支払っていた場合は、その超過利息分を元金返済に充当することが出来、もし超過利息が元金を超えている場合は過払い金として返金されます。

(2008年9月7日)