予想されていたことですが、2013年9月4日に、最高裁大法廷で、ついに婚外子相続差別の違憲判決が出ました。
判決のポイント
現在の民法900条では、「非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1」とされています。例えば、ある男性に戸籍上の妻との子Aと、そうではない女性との子Bがいる場合、現在の民法では、子Aの相続分は1,000万円で、子Bの相続分は500万円になります。しかし、今後は、上記の例の場合であれば、嫡出子、非嫡出子の区別がなくなり、750万円ずつの相続権を持つことになります。
判決の意図、意味
これまでは、家族制度、戸籍制度を重視し、子は夫婦間でもうけるべきであり、婚姻外でもうけた子にはペナルティとして相続権を2分の1しか与えないという制度でした。しかし仮にペナルティを与えるにしても、婚外子をもうけたその父親にペナルティを与えるのならともかく、何の責任もない生まれてきた子にペナルティを与えるのは筋違い、という判断になったわけです。憲法第14条の「法の下の平等」に反するという判断です。
適用範囲、時期
今回は2001年7月と同年11月の事案に関して下された決定です。つまり、その2001年時点で既に違憲状態であったということです。そうなると、それ以降に行われた相続で差別を受けていた婚外子側が我も我もと、訴訟を起こしてくることが容易に想像されます。いわば、法的安定性が損なわれてしまうことになります。それでは裁判所も忙しくなりすぎますし、世の中に混乱が起きてしまいます。そこで今回は、既に決着済みの遺産分割には影響しないという異例の言及をしました。しかし、2013年9月4日以降の相続に関しては、最高裁判所の判例には事実上の拘束力がありますので、民法規定ではなく最高裁判所の判例に基づいた遺産分割を行うことになります。
民法改正
これまで、最高裁は同様の事案に関して、かろうじて合憲判断をしていました。何回となく、間もなく違憲判断をするという意思を表明し、国会に民法改正を促してきました。しかし、政治的混乱あるいは国会の機能不全が続いたこともあり、不作為により国会の審議を怠ってきました。それにしびれを切らし、最高裁が違憲判決を下したという経緯になります。国会が民法を改正すれば、法律は原則的に遡及しませんので、過去の事案に関して訴訟を起こされるということもなく、法定安定性は損なわれません。判決は過去のある時点の法的判断を示し、法律は現時点の法的判断を示します。1票の格差の問題もそうですが、国会が怠慢だと司法が非常に難しい立場に置かれることになります。
嫡出子と婚外子(非嫡出子)
嫡出子とは、婚姻中に生まれた子の他に、離婚から300日以内に生まれた子も含まれます。民法772条に、「婚姻の解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と規定されているためです。婚外子とは、婚姻関係にない男女から生まれた子供をいいます。通常、母子関係は懐胎・分娩という事実から明確にすることができますので、婚外子とは父親が子を認知することにより生じます。認知されていない子は婚外子ではなく、法的な関係が全くありません。
なお、法律上では、嫡出子と非嫡出子で規定されていますが、非嫡出ではマイナスイメージがあるため、1980年代以降、非嫡出子ではなく、婚外子と呼ばれるようになりました。同様に、嫡出子を婚内子と呼ぶこともあります。
婚外子の数
厚労省の統計によると、2011年に出生した子のうち、婚外子は2万3,354人で全体の2.2%です。戦前は婚外子比率が高く、7~10%に達していましたが、戦後は急速に低下しました。
最近は日本でも結婚するより前に子どもができるケースが多いので、2.2%は感覚的には少ない印象があります。それは、独身の間に子どもが生まれ、父親が認知した場合でも、その後その二人が婚姻をすることによって、その子が嫡出子になる(民法789条:婚姻準正)ことによります。
海外の場合
欧米では70年代以降、同棲が増え、結婚を経ず出産するケースが多くなり、北欧では約半数が婚外子として生まれています。結果として、仏、米、英は言うに及ばず、中国、韓国でも、相当前に婚外子差別はなくなっています。婚外子差別に関しては、主要国では日本だけがとり残されていて、完全に外堀を埋められていた状態でした。
(2013年 9月11日)