知的資産経営報告書

企業が成長するには、以下のような面において、様々な強み、競争優位性が必要です。

人材、製品、サービス、資金、営業、技術、マーケティング、マネジメント、パートナ、トップの求心力・先見性等々

中小企業の中には、実際には色々な強みがあるのに、その強みを外部に適切に伝えきれず、思うように成長できないところが少なくありません。もったいないことです。社会、そして日本の損失でもあります。そのような将来性のある中小企業を強力にバックアップするツールがあります。「知的資産経営報告書」です。

知的資産経営報告書とは

「知的資産経営報告書」を作成することにより、ファイナンス、リクルーティング、パートナ開拓、営業に非常に効果があったという事例が増えています。今後は、損益計算書、貸借対照表などと共に「知的資産経営報告書」が中小企業の作成する基本的な報告書になるかもしれません。

一般的に企業を評価する際は財務諸表を用いて行います。企業の1年間の成績、あるいは一定時点の価値を通貨で示したものです。しかし、それらは結果であり、評価の一側面を表したものと言えます。「知的資産経営報告書」は金銭では表しにくい無形資産、あるいは知的資産をもっと評価すべきではないかという考え方から生まれたものです。企業の本当の強さを見るため、財務諸表と共に知的資産の評価がますます重要になってきています。

知的資産とは

まず、知的資産とは何かですが、これに関しては以下の経産省のポータルに定義があります。
http://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/teigi.html

そこでは、広義の知的資産を以下の3種類に分類しています。
【A】
1.知的財産権(取引可能で法律で権利化されている。)
特許権、実用新案権、著作権など
2.知的財産(取引可能で法律で保護されている。)
ブランド、営業秘密、ノウハウなど
3.知的資産(狭義)(競争力や成長力の源泉になっている。)
人的資産、組織力、経営理念、顧客との関係性、技術力など
広義の知的資産と呼ぶものが、知的財産を含めた広い概念であることがわかります。

また、その広義の知的資産を別の角度から、以下の3種類に分類する方法があります。
【B】
1.人的資産(従業員の退職と共に失われる資産)
個人の知識、ノウハウ、経験、スキル、対応力など
2.構造資産(従業員の退職によっても失われない資産)
特許権、商標権、経営理念、組織、企業文化、データベース、
IT資産、マニュアルなど
3.関係資産(企業の対外的な関係資産)
顧客、サプライヤ、パートナ、金融機関、官公署との関係など

自社を分析して、その強みである知的資産を容易に発見できるかというと、必ずしもそうではありません。その場合は、企業活動を以下の4つのフェーズに分けると考えやすくなります。
【C】
1.経営理念、方針
2.マネジメント
3.研究、開発、製造、技術、ノウハウ
4.製品、サービス

そして、【B】を縦軸、【C】を横軸にしたマトリクスの中に、自社の具体的な強み、競争優位性である【A】を具体化して埋めていくことにより自社の知的資産を整理することができます。例えば以下のようなものがあり得ます。
【縦軸/横軸】
B1/C1 トップの卓越した理念、構想力、行動力
B1/C3 他社に比べて数多いレベルの高い技術者
B2/C2 フラットでオープンな企業文化
B2/C3 広く深い技術者教育システム
B2/C4 間違いのない短納期体制
B3/C3 数多い信頼できる開発パートナ
B3/C4 高いマーケットシェア、顧客満足度の高さ

それら、目に見えにくい、金銭で評価しにくい知的資産を報告書形式で表現したものが「知的資産経営報告書」になります。評価して欲しい自社の強み、優位性に関する報告書とも言えます。

知的資産経営報告書の効果

以下に実際の「知的資産経営報告書」が掲載されているサイトを示します。
http://www.jiam.or.jp/CCP013.html

何より、この「知的資産経営報告書」が良い点は、単なる内部向けのマネジメントツールにとどまらず、明確な目的を持って外部に発表、利用することにより、効果が見えやすいということです。例えば、以下のような効果が言われています。

・銀行からの借り入れがし易くなった。
・リクルーティングがし易くなった。
・新規の取引先を獲得し易くなった。
・新規のパートナと提携し易くなった。
・社員が自社の強みを再認識し、社員のベクトルを合わせ易くなった。
・M&Aにおける資産評価でも高く評価されるようになった。

上場企業、大企業であれば、知的資産に関する知見も十分ありますし、その結果として、事業報告書、アニュアルレポート等に知的資産の情報も盛り込まれています。一般的には、上場企業、大企業であること自体が、知的資産を多く保有しているだろうと推測させ、結果として信頼されることになります。その意味では、知的資産に関する認識、自覚が必ずしも十分ではなく、外から見てどの程度、知的資産を保有しているかが見えにくい中小企業にこそ、外部からの信頼感を得るために「知的資産経営報告書」が必要だということが言えます。無形資産である知的資産の”見える化”です。

知的資産経営報告書の今後

まだ、「知的資産経営報告書」は導入期にあると言えます。しかし、関西の中小企業を中心に確実に実効を上げつつあります。是非、中堅、中小企業は「知的資産経営報告書」を作成、公開することにより、自社の強みを外に発信し、外部からの信頼感を得てもらいたいと思います。今後の企業成長の必須のツールになると思います。

(2010年 12月 5日)