自宅不動産を複数人で相続するとき

自宅不動産を中心とした遺産を複数の相続人で相続するというのは良くある話です。相続人に公平に配分できるほど土地が広かったり、あるいは預貯金が多かったりすれば、分割しやすく、遺産分割協議もまとまり易いといえます。しかし実際には、相続財産のほとんどが自宅不動産で、そこに被相続人と相続人の誰かが一緒に住んでいたというケースはかなり多いです。このようなケースでの遺産分割はまとまりにくいことがあります。遺言を残すにしろ、遺産分割協議で分割するにしろ難しい面があります。

今回は、遺産の中心が自宅不動産というケースの相続方法に関してです。

はじめに

不動産を持っているとまず最初に気になるのは相続税です。しかし居住用不動産が遺産の中心というケースではほとんど心配はありません。相続税を払うような相続は全体の5%以下と言われています。相続税は、5,000万円に相続人1人当たり1,000万円を乗じた金額を加えた金額が基礎控除になります。例えば、配偶者と子ども二人が相続人の場合では8,000万円まで相続税がかからないことになります。建物は減価償却されていますので、現実的には土地の評価額が気になるところです。しかし被相続人が居住用に使用していた240㎡以下の土地で、相続人が継続して居住用に使用するのであれば「小規模宅地等の特例」が適用され、税額が80%減免されます。これにより、相続税のかかる人は非常に減ってきます。

相続が発生しますと、民法上では相続財産が法定相続人全員による法定相続割合に則した共有になったとみなされます。その共有状態を遺言書、あるいは遺産分割協議書などにより修正して、分割し、各相続人の固有財産として所有することになります。

分割方法には、現物分割、代償分割、換価分割の3つの方法があります。

現物分割

現物分割とは、個々の財産についてその取得者を個別に決定する分割方法です。自宅は長男へ、預貯金は長女へ、有価証券は次男へというように、個々の財産を分割しないでその現物のまま分割する方法です。この方法ですと、相続財産における自宅不動産の占める割合が大きい時に困ります。自宅を相続する人の相続割合が大きすぎることになり不公平になってしまいます。不動産を分割しても意味がある程広いのであれば、不動産自体を分割するという話もありますが、現実的には多くはありません。

代償分割

そこで、代償分割という方法が良く行われます。遺産のほとんどが自宅不動産で、相続人の一人が継続的に居住、かつ相続となると、その人が遺産の多くを相続することになります。結果として、分割割合が不公平になってしまいます。その場合には、まずその不動産を売却したと仮定して、その想定売却金額と他の預貯金等を合計して、総遺産額を算出します。そして、その金額を分割割合で配分するわけです。しかし、結果として、不動産を相続する人が多額の現金を他の相続人に渡すことが出てきます。その現金の捻出に苦労する場合があります。また想定売却金額でももめるケースがあるようです。一般的には、市街地であればいわゆる路線価を採用することになります。税務署で調べることが出来ます。

換価分割

代償分割をしたいが、不動産を相続する人が他の相続人に渡す現金を用意できないケースなどの時に採用されます。不動産を実際に売却してその代金を相続人間で配分します。ただ、実際には被相続人の住んでいた住居に継続して居住したい、あるいは出てしまったら他に住むところがなくなってしまう等の理由で、なかなか自宅を売却することが出来ないケースがあります。また換価分割の場合は税金にも注意する必要があります。

共有

当然、不動産を共有のままにしておくことは出来ます。現物分割では遺産が偏りすぎ、代償分割では自宅を継続使用する人が現金を用意できず、換価分割では住むところがなくなってしまうとなると共有のままということになります。しかし共有はその時は良いとしても年月が経過しますと必ず不都合が生じてきます。共有者の一人がお金が必要になり売却したいと思っても全員の同意が必要です。また共有者が亡くなると相続が発生し、権利関係が複雑になってしまいます。共有は避ける方が無難です。

まとめ

現実的には、何もしないというケースもあり得ます。自宅がまだ亡くなった人の名義のままというケースがよくあります。年とともに相続人が亡くなっていきますので、その相続も発生します。関係者が増えて複雑になってしまいます。基本的に中間省略登記は出来ませんので、いつかは亡くなった人の順番に逐次相続処理をしなくてはなりません。面倒なことを次世代、次々世代に押し付けているだけになります。相続登記は早めに行うことが必要です。

遺産分割が相続人の間でもめないようにするのが人生最後の仕事とも言えます。折角、皆のために生きてきたのに最後に自分のことが原因でもめてしまっては元も子もありません。遺産を分割しやすいようにしておく、分割割合、分割方法を予め相続人に理解してもらう、遺言書を書くなどの準備が必要です。家族、親族に揉め事の種を残して、”後はよろしく”ということだけは避けたいものです。

(2010年 11月 6日)