相続に係る民法改正が成立

相続分野の規定を約40年ぶりに見直す改正民法など関連法が7月6日、参院本会議で可決、成立した。
法改正のポイントは3つ。

  • 1つ目は、残された配偶者の保護を手厚くしたこと。
    • 残された配偶者が自身が死去するまで今の住居に住める「配偶者居住権」を創設し、生活資金を確保しやすくする。
    • 居住権を得られれば、残された配偶者は住まいを確保するために住居の所有権を取得する必要がなくなる。
    • それにより、遺産分割においては、預貯金など他の遺産の取り分を増やし、老後の生活資金にあてることも可能になる。居住権のみなら、所有権を取得する場合よりも評価額が低くなることによる。
    • 婚姻期間20年以上の夫婦であれば、住居を生前贈与するか遺産で贈与の意思を示せば住居を遺産分割の対象から外す優遇措置も設けた。それにより、実質的に配偶者の遺産の取り分は増えることになる。
  • 2つ目は、介護や看護をした人に報いる制度を盛り込んだこと。
    • 被相続人の死後、相続人以外で介護や看護をしていた人が、相続人に金銭を請求できるようにする。
    • 息子の妻が義父母を介護していたケースなどを想定する。
  • 3つ目は、自筆証書遺言の利便性と信頼性を高めること。
    • 自筆証書遺言は、作成過程に公証人がかかわる公正証書遺言と異なり、被相続人が自分一人で自由に書くことができる。ただ、内容に問題があっても死後まで分からず、無効になるケースがある。
    • 本人が自宅に保管したり、金融機関の金庫に預けたりしているため、相続人が存在を知らないケースもある。
    • 今後は、全国の法務局で遺言を保管できるようにし、相続をめぐるトラブルを未然に防ぐようにする。
    • なりすましが起こらないよう、預ける本人が法務局に出向き、遺言書保管官が本人確認をする。日付や名前が記載され、印鑑が押されているかどうかなども事前にチェックされる。
    • 法務省によると、法務局に預ける際は一定の手数料がかかる。額は調整中だが数千円程度が想定されている。
    • 近年、公正証書遺言が増加しているが、公正証書遺言では、遺言の内容により、通常5万円程度以上の手数料が必要なことが多い。
    • 新しい自筆証書遺言の制度は、手数料の額が低いため、遺言を遺す新たな層を掘り起こす可能性がある。
    • 自筆証書遺言の存在が遺言者の死後に相続人に時間を置かず通知される仕組みも不可欠になる。
    • 戸籍やマイナンバーと連動させたシステムを検討し、死亡届が提出された場合、法務局から相続人に通知できるようにする。紛失などのリスクを減らし、利便性を高める。
    • 2020年7月までに順次施行する。

相続人に未成年の子がいるとき

若くして交通事故などで亡くなるケースがあります。
相続人が30代前半の配偶者(奥様)と小さな子供の場合、不動産の相続登記に関して話が少し複雑になります。

  • 法定相続にするとき
    • 共有で子供が権利を得ることになるので、特に問題がなく、母親が登記申請をすることができます。
  • 母親が単独所有にするとき
    • 今後、ずっと母親が子供の面倒をみるので、処分等のとき便利なように、母親一人の単独名義にする場合があります。
    • この場合、相続人である未成年の子には特別代理人の選任申し立てをする必要があります。
    • そして、未成年の子に代わって、特別代理人が、母親の単独相続に対して合意をすることになります。
    • 考慮しなくてはいけないことは、まだ母親が若いので、再婚の可能性があることです。
    • 再婚してその相手との間に子ができた場合の相続を想定しておく必要があります。
    • その母親が亡くなったとき、再婚した夫が存命中かどうかにより割合は異なってきますが、いずれにしろ当初の子の相続割合は少なくなってしまいます。
    • 周囲の人も、特別代理人もそこまで考慮に入れて、判断する方が良いと思います。

「法定相続情報証明制度」(仮称)が新設されます。

「法定相続情報証明制度」(仮称)が新設されます。

法務省は7月5日、相続手続きを簡素化する「法定相続情報証明制度」(仮称)を来年度に新設すると発表しました。
今後の相続手続きに大きな影響を与えそうなので整理してみたいと思います。

【新制度の概要】

  • 新制度では、まず相続人の一人が、相続不動産のある管轄法務局に以下の書類を提出します。
    ・全員分の本籍や住所、生年月日などを記載した申請書類
    ・亡くなった人の出生から死亡までの戸籍と相続人全員分の戸籍
  • 提出された法務局は、書類を精査し、相続関係が確認できれば、公的な証明書を作成し、法務局内に保管します。
  • そして、相続人には、その証明書の「写し」が交付されます。
  • その証明書の写しは、別の法務局でも使えるため、同時に、他の法務局管轄の不動産などを相続する場合には、戸籍ではなくこの証明書の写しを提出します。
  • 金融機関などでも、その証明書の写しで手続きが行えるよう調整する予定です。

【現行制度】
現在の相続手続きを確認します。

  • 効力のある遺言がない場合、被相続人の財産を相続できる相続人が誰であるかを確定する必要があります。
  • そのため、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍などを遡って取得しなければなりません。
  • それぞれ、当該市区町村の役所で請求するので、転籍、婚姻、離婚、再婚などをしている場合は、相当な手間がかかります。
  • 被相続人との関係が分かる相続人全員の戸籍謄本(抄本)も必要になりますが、人数が多いとこの作業も大変になります。
  • 遺産分割協議により相続した場合は、相続人が実印を押印した遺産分割協議書や印鑑証明書もそろえなければなりません。
  • 揃えた一式の書類を、相続不動産を管轄する全ての法務局、解約する全ての金融機関、相続税申告をする税務署に提出します。
  • 一般的に、戸籍謄本類を複数部取得することはせず、各提出機関で原本還付という使い回しをして順番に手続きをするので、非常に日数がかかります。

【新制度のメリット】

  • 新制度では、相続関係の確定を最初の法務局でしてしまえば、その後の法務局、金融機関で何度も同じことをしないで済むというメリットがあります。
  • 現在は、同じ書類を提出して、複数の機関で同じことをしているわけなので、「膨大な社会的コスト」(法務省)の軽減が図れることになります。

【新制度の課題】

  • 被相続人の関係を確定するために、被相続人の出生から死亡までの戸籍類を取得すること、被相続人との関係が分かる相続人全員の戸籍類を取得する手間は相変わらず必要です。
  • この制度により、作業が軽減されて、恩恵を受けるのは、主に法務局と金融機関です。
  • 相続不動産が1件など、他の法務局管轄の相続不動産が存在しないときは、この新制度のメリットを生かせません。
  • 相続不動産がなく、相続財産が預貯金だけの場合に、この制度を利用できるのか不明です。
  • 相続人側からすると、原本還付を待って順番に手続きせずに、証明書の写しにより、並行的に進めることができるというメリットはあります。
  • 相続人側からすると、マイナンバーを使うなりして、戸籍収集の膨大な作業を軽減して欲しいところです。

以上のように、相続人からみるとこの制度の恩恵は限定的です。
やはり現時点で有効なのは、効力のある遺言を遺すことです。
効力のある遺言があれば、遺言の内容に沿って、遺産相続を行えますので、膨大な戸籍を取得するという重荷から解放されます。

(2016年7月6日)