研修「知的資産経営支援者の実務」に参加

行政書士会の研修、「知的資産経営支援者の実務」に参加した。

非常に良いセミナーだった。
内容も良かったし、講師の江端俊昭先生の話し方も非常に分かり易かった。
知的資産経営報告書を作成するという直接的な新しい業務もさることながら、この切り口で企業支援コンサルテーションに切り込んでいくというストーリーにも説得力があった。

やはり以前、同じ業界にいただけに、話す内容にはかなり共感した。
江端さんとは20年ぶりくらいの再会になる。
江端さんは当時、外資系ソフトウェア会社にいて、自分の会社とは取引関係にあった。
相当前に行政書士に転身したようだが、大成功と言える。
日本行政書士会の相当中枢部にいる印象。

2011年3月22日(火)

貸したお金を返済してもらう方法

借りたお金は返すのは当然のことですが、中には借りたお金を返さない人もいます。返せないのならいざ知らず、返せるのに返さない人もいます。

今回は、そのような人からどのようにお金を取り戻すか、に関してです。
いわゆる債権の取立です。

第1段階 内容証明郵便の送達

口頭、メール、通常郵便による催促では返済してもらえない場合、次に取る手段は内容証明郵便です。内容証明郵便とは、

「いつ、誰から誰へ、どのような内容の文書が出されたか」

を郵便事業株式会社が証明してくれる制度です。
その際、いつまでにいくら返して欲しい、という要求を明確に書くことはもちろんですが、最後に、

「なお、上記期間内に支払いのない場合、法的手段をとることになりますので申し添えます。」

というような文章を入れます。

通常の郵便による催促から一足飛びに訴訟に移ると相手が態度を硬化させる可能性が高いです。まずは、内容証明郵便でこちらの本気度を示すわけです。しかし、内容証明郵便による催告は一般の人にはかなりの心理的プレッシャーになります。この段階で返済してくれる人は多いと思います。

第2段階 訴訟提起

それでも返済がない場合は、貸金返還訴訟を起こします。借用書があり、明らかに勝算があるのであれば本人訴訟で良いでしょう。低廉な費用で済みます。特に60万円以下であれば、簡易裁判所で数千円の費用で済む少額訴訟の制度があります。

実際に訴えられると、相手もさすがに無視できなくなります。特に自分に勝算がない場合はなおさらです。この段階までくると返済できるのであれば返済するでしょう。仮に即刻全額返済しないまでも、分割返済などの和解提案をしてくるかもしれません。

第3段階 口頭陳述、勝訴判決

それでも返済がない場合は、実際の裁判になります。少額訴訟であれば1回だけの審理で口頭弁論が行われ、その日に判決が下されます。1日だけの拘束で手間がかかりません。通常の訴訟であっても借用書があれば負けることはないでしょう。敗訴判決が出れば、さすがに相手も何とかして返済すると思われます。

第4段階 強制執行

それでも返済がない場合は、強制執行をしてもらうことになります。ただ、勝訴の確定判決が出たからすぐ強制執行を行えるわけではありません。原則的には、その確定判決(債務名義)に執行文の付与を得た後、執行裁判所により強制執行の開始決定をしてもらうことが必要です。不動産執行と動産執行に違いはあるものの、差押え、競売、換価、債権回収という手続きは基本的に同じです。

まとめ

以上のように、最後は、国の力を借りて強制執行をしてもらうことになります。しかし、結構長い道のりです。その間に相手は返済逃れのため、財産を隠してしまうかもしれません。民事訴訟では勝てるかどうかより先に、勝ったとして差し押さえる財産があるかどうかの方が重要問題です。財産がなければ、裁判に勝っても判決書はダダの紙切れになってしまいます。

そこで、一般には、上記の段階を順番に踏むのではなく、財産隠しを防ぐため、訴訟提起前に抜き打ちで仮差押えをしてしまいます。最後の段階で借金返済の資産がないのでは無駄な努力になってしまいます。予めその借金返済用の動産、不動産を差し押さえる分けです。その後、おもむろに訴訟に持ち込むことになります。

ところで、返済遅延が発生したら一足飛びに強制執行に移れる強力な方法があります。金銭消費貸借契約書(借用書)を公正証書にする方法です。
書面に

「借主は、本契約による金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」

と記載します。
それにより、確定判決と同等の効果が得られますので、支払い遅延になったときはすぐに強制執行に移ることができます。公証人手数料は、貸金額が100万円でも5,000円程度ですので、どうしてもお金を貸さざる得ないときは公正証書にするのが良い方法です。

(2011年 1月 9日)

知的資産経営報告書

企業が成長するには、以下のような面において、様々な強み、競争優位性が必要です。

人材、製品、サービス、資金、営業、技術、マーケティング、マネジメント、パートナ、トップの求心力・先見性等々

中小企業の中には、実際には色々な強みがあるのに、その強みを外部に適切に伝えきれず、思うように成長できないところが少なくありません。もったいないことです。社会、そして日本の損失でもあります。そのような将来性のある中小企業を強力にバックアップするツールがあります。「知的資産経営報告書」です。

知的資産経営報告書とは

「知的資産経営報告書」を作成することにより、ファイナンス、リクルーティング、パートナ開拓、営業に非常に効果があったという事例が増えています。今後は、損益計算書、貸借対照表などと共に「知的資産経営報告書」が中小企業の作成する基本的な報告書になるかもしれません。

一般的に企業を評価する際は財務諸表を用いて行います。企業の1年間の成績、あるいは一定時点の価値を通貨で示したものです。しかし、それらは結果であり、評価の一側面を表したものと言えます。「知的資産経営報告書」は金銭では表しにくい無形資産、あるいは知的資産をもっと評価すべきではないかという考え方から生まれたものです。企業の本当の強さを見るため、財務諸表と共に知的資産の評価がますます重要になってきています。

知的資産とは

まず、知的資産とは何かですが、これに関しては以下の経産省のポータルに定義があります。
http://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/teigi.html

そこでは、広義の知的資産を以下の3種類に分類しています。
【A】
1.知的財産権(取引可能で法律で権利化されている。)
特許権、実用新案権、著作権など
2.知的財産(取引可能で法律で保護されている。)
ブランド、営業秘密、ノウハウなど
3.知的資産(狭義)(競争力や成長力の源泉になっている。)
人的資産、組織力、経営理念、顧客との関係性、技術力など
広義の知的資産と呼ぶものが、知的財産を含めた広い概念であることがわかります。

また、その広義の知的資産を別の角度から、以下の3種類に分類する方法があります。
【B】
1.人的資産(従業員の退職と共に失われる資産)
個人の知識、ノウハウ、経験、スキル、対応力など
2.構造資産(従業員の退職によっても失われない資産)
特許権、商標権、経営理念、組織、企業文化、データベース、
IT資産、マニュアルなど
3.関係資産(企業の対外的な関係資産)
顧客、サプライヤ、パートナ、金融機関、官公署との関係など

自社を分析して、その強みである知的資産を容易に発見できるかというと、必ずしもそうではありません。その場合は、企業活動を以下の4つのフェーズに分けると考えやすくなります。
【C】
1.経営理念、方針
2.マネジメント
3.研究、開発、製造、技術、ノウハウ
4.製品、サービス

そして、【B】を縦軸、【C】を横軸にしたマトリクスの中に、自社の具体的な強み、競争優位性である【A】を具体化して埋めていくことにより自社の知的資産を整理することができます。例えば以下のようなものがあり得ます。
【縦軸/横軸】
B1/C1 トップの卓越した理念、構想力、行動力
B1/C3 他社に比べて数多いレベルの高い技術者
B2/C2 フラットでオープンな企業文化
B2/C3 広く深い技術者教育システム
B2/C4 間違いのない短納期体制
B3/C3 数多い信頼できる開発パートナ
B3/C4 高いマーケットシェア、顧客満足度の高さ

それら、目に見えにくい、金銭で評価しにくい知的資産を報告書形式で表現したものが「知的資産経営報告書」になります。評価して欲しい自社の強み、優位性に関する報告書とも言えます。

知的資産経営報告書の効果

以下に実際の「知的資産経営報告書」が掲載されているサイトを示します。
http://www.jiam.or.jp/CCP013.html

何より、この「知的資産経営報告書」が良い点は、単なる内部向けのマネジメントツールにとどまらず、明確な目的を持って外部に発表、利用することにより、効果が見えやすいということです。例えば、以下のような効果が言われています。

・銀行からの借り入れがし易くなった。
・リクルーティングがし易くなった。
・新規の取引先を獲得し易くなった。
・新規のパートナと提携し易くなった。
・社員が自社の強みを再認識し、社員のベクトルを合わせ易くなった。
・M&Aにおける資産評価でも高く評価されるようになった。

上場企業、大企業であれば、知的資産に関する知見も十分ありますし、その結果として、事業報告書、アニュアルレポート等に知的資産の情報も盛り込まれています。一般的には、上場企業、大企業であること自体が、知的資産を多く保有しているだろうと推測させ、結果として信頼されることになります。その意味では、知的資産に関する認識、自覚が必ずしも十分ではなく、外から見てどの程度、知的資産を保有しているかが見えにくい中小企業にこそ、外部からの信頼感を得るために「知的資産経営報告書」が必要だということが言えます。無形資産である知的資産の”見える化”です。

知的資産経営報告書の今後

まだ、「知的資産経営報告書」は導入期にあると言えます。しかし、関西の中小企業を中心に確実に実効を上げつつあります。是非、中堅、中小企業は「知的資産経営報告書」を作成、公開することにより、自社の強みを外に発信し、外部からの信頼感を得てもらいたいと思います。今後の企業成長の必須のツールになると思います。

(2010年 12月 5日)

出産育児に関する法制度等

先日、東京都の文京区長が2週間の育児休業を取得するということが話題になりました。会社の男性も育児休暇を取得しました。少子化問題に対処するため様々な取り組みが行われています。色々な制度を組み合わせて効果を上げようとしています。

今回は、出産、育児に関する法制度に関して、その概要を簡単に説明してみたいと思います。以下、会社員を想定しています。

妊娠中の業務量軽減

労働基準法では妊娠、出産、育児をする女性に対して様々な保護を行っています。まず、妊娠した女性は、時間外、休日労働をしないこと、及び軽易な業務への配置転換を請求することが出来、事業主はそれを拒むことが出来ません。例えば、外回り営業とかドライバーという職種は母体に負担が大きいので、残業のない内勤業務に就くことが可能になります。

出産前6週間の休業と出産手当金

産前6週間は休業の申出、取得が可能になります。申出があれば会社は拒むことが出来ません。その産前休業期間中は解雇することは出来ませんし、産前休業の申出、取得を理由にした不利益取り扱いも出来ません。しかし、労基法ではノーワーク・ノーペイの原則がありますので、産前休業期間中の賃金まで保障するものではありません。休業期間に対しては、健康保険法から出産手当金として平均報酬日額の3分の2が支給されます。労基法で休業を保障し、健康保険法から手当てを支給するという合わせ技です。但し、働いて報酬を受ける場合は、その分減額されてしまいます。

出産時の出産育児一時金

出産とは、妊娠85日目以後の分娩を意味します。出産には死産、流産、人口中絶を問わず全ての分娩が含まれ、健康保険法から出産育児一時金が35万円(暫定措置等で現在は基本的に42万円)支給されます。出産育児一時金は、被扶養者も対象になります。出産が予定日より遅れた場合はその日数分、産前休業が延長されます。

出産後8週間の休業と出産手当金

産後は8週間の休業申出、取得が可能になります。最初の6週間は労働させてはいけない期間ですが、最後の2週間は本人の請求と医師が認めた場合には業務に就くことが可能になります。更に、その産後休業期間中とその終了後30日間は解雇できない期間となります。産前休業と同様、その申出、取得を理由にした不利益取り扱いも当然出来ません。また、産後休業期間中も産前休業同様、健康保険法から出産手当金が支給されます。

出産後1年間の育児休業

出産後1年間に関しては、育児介護休業法により、父母共に育児休業の申出、取得が可能になります。特に母親は使用者の承認、許可は不要で、使用者は拒むことは出来ません。いわゆる待機児童などの場合はその1年間が1年6ヶ月間に延長されます。育児休業中は労基法上の解雇制限はありませんが、育児休業の申出、取得を理由とした解雇、不利益取り扱いは認められないので実質的には守られています。なお、母親に関しては、出産後1年間は1日2回、少なくとも30分ずつ、育児時間の請求が可能です。また、時間外、休日労働をしない請求も可能です。

出産後1年間の出産手当金

産後休業期間の8週間は健康保険法から出産手当金が支給されましたが、引き続いて育児休業に入ると今度は雇用保険法から育児休業給付金が支給されることになります。このあたりは法律間でうまく連係が取れています。育児休業給付金は今年の4月から改正され、二本立てであったものが一本化されて賃金日額の50%が支給されることになりました。もし事業主から上乗せとして別途支給される福利厚生としての育児手当等がある場合、それが30%に達するまでは育児休業給付金は減額されず、合計で80%まで支給されることになります。育児休業が父母共に取得できることに対応し、育児休業給付金も父母共に対象になります。なお、育児休業期間中は健康保険料、厚生年金保険料共に事業主負担分を含めて支払いが免除され、支払っているものとして扱われます。

小学校入学までの看護休暇

育児休暇が終了すると職場復帰するわけですが、子が小学校入学までは育児介護休業法により、子の看護休暇を年間5日まで取得できます。法律上は無給で構いません。

中学校卒業までの児童手当

新聞で報道されていますように、この4月からは児童手当が子ども手当になり、金額も増額され、中学を卒業するまで一人当たり毎月13,000円支給されることになりました。

パパ・ママ育休プラス制度

今年の6月30日から育児介護休業法が以下のようにいくつか改正されます。
・これまで1年後までであった育児休業が1年2ヶ月後までに取得期間が延長されます。
・産後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合、産後1年2ヶ月後までであればもう1回、計2回に分けて育児休業を取得することが可能になります。
・専業主婦がいる場合、会社は父親の育児休業取得を拒むことが可能でしたが、今後は拒めなくなります。

企業の上乗せ給付

出産、育児関係では会社、健康保険組合などの上乗せ給付等が盛んです。イメージアップも兼ねて拡充している会社、組合が多いと言えます。ベネッセ、住友生命保険などでは父親の育児休業の1ヶ月間を有給にしていますし、ソフトバンクの出産祝い金は第1子5万円、第2子10万円、第3子100万円、第4子300万円、そして第5子以降は何と500万円になっています。

(2010年 4月14日)

労働保険と社会保険

会社を設立するのは比較的簡単ですが、事業を開始し、人を雇用し始めると様々な責任、義務が生じてきます。その一つとして、労働保険、社会保険があります。

そこで、今回は労働保険、社会保険に関する最低限の概括的な知識です。

労働保険と社会保険の種類

会社を設立すると基本的に労働保険と社会保険が義務付けられます。労働保険には、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険があり、社会保険には健康保険と厚生年金保険があります。労働保険、社会保険を考える時、事業・会社が適用になるかということと、適用になった場合にそこに使用される労働者が適用になるかということの2つのステップで考える必要があります。個人事業であれば各種の適用除外がありますが、会社であれば規模に関わらず適用事業とされ、そこで働く通常の労働者は適用者とされます。

労働保険の適用事業

労働保険は、規模を問わず、基本的には個人事業、会社に強制適用されます。労災保険と雇用保険で若干異なりますが、労働者が5人未満等の一部業種の個人事業が任意適用になります。しかし会社であれば全面適用になります。事業が開始されたときに労災保険と雇用保険関係が共に(自動的に)成立します。そのため、所轄官公署への事業の届出が義務になっています。

労働保険の適用労働者

適用労働者に関して言えば、労災保険は労働災害に対する補償なので、短時間、短期間労働者であっても全面適用して労働者を守ります。それに対して、雇用保険は労働者自身も保険料を負担するので、全面適用をしていません。短時間、短期間労働者など様々な適用除外があります。

労災保険

労災保険の保険料は総賃金に労災保険料率を乗じた金額で、会社が全額負担します。労働基準法に基づく補償を会社に代わって行うものなので、労働者は保険料を負担しません。労災保険料率は0.3%から10.3%まで55の業種別に細分化されています。業務災害の多い建設業などが高率で、例えばソフトウェア業であれば最も低い0.3%になります。

雇用保険

雇用保険は労働者の失業等に対する保険です。会社は総賃金に対して雇用保険料率を乗じた金額を保険料として負担します。雇用保険料率は事業の種類により3種類に分かれていますが、一般的な事業であれば、1.1%です。但し、その1.1%のうち0.4%は労働者が負担します。

社会保険の適用

社会保険は、特定業種及び従業員5名未満の個人事業は適用除外になります。しかし、会社であれば業種、規模を問わず強制適用で、健康保険と厚生年金保険は基本的にセットで手続きをします。適用除外者に関する規定も両保険でほぼ共通で、短時間、短期間従業員は基本的に適用除外になります。

健康保険

健康保険は、疾病、負傷、出産、死亡に関する被用者向けの保険です。被用者でない個人事業主等は国民健康保険となります。健康保険には協会健保と組合健保があります。保険料は報酬に対して3%から10%の範囲の保険料率を乗じて求めます。健保財政は現在厳しく毎年のように保険料率がアップしています。協会健保は都道府県単位で異なり、東京都であれば平成22年3月から9.32%になります。組合健保は組合ごとに異なり、例えば関東ITソフトウェア健康保険組合では平成22年3月から7%になります。いずれも会社と被保険者で折半します。

厚生年金保険

厚生年金保険は老齢、障害、死亡に関する保険です。会社に勤めることにより国民年金から厚生年金に移行しますが、厚生年金の被保険者は国民年金の第2号被保険者でもあります。つまり厚生年金は国民年金を含んだ仕組みです。保険料は健康保険同様、報酬に対して保険料率を乗じて求めます。保険料率は、平成22年8月までは約15.7%で、会社と被保険者で折半します。年金財政も厳しく、毎年アップして平成29年9月からは18.3%になることが決まっています。

(2010年 3月13日)

LLCとLLP

年をとるにつれて会社勤めが色々な意味で難しくなってきます。50歳を超えるような年齢になると、勤めている会社で役員になるか、あるいは外に出て独立するかのどちらかにならざるを得ないような気がします。ところで、会社法になってから株式会社設立のハードルが下がりました。数十万円もあれば誰でも会社を設立でき、社長になれます。

そこで今回は会社、その中でも新しいタイプ会社の話です。

我々に馴染みのある法人の代表格は株式会社です。有限会社はもはや設立できませんので、一人であっても株式会社を設立することになります。具体的な株式会社の設立方法に関しては後日の話題として、他の法人を考えてみましょう。旧商法と会社法の違いは、有限会社がなくなって合同会社が出来たことです。高校の時に勉強した合名会社、合資会社は相変わらず存在します。ただ我々が設立することはまずないので、新しいタイプの合同会社という会社の特徴を見てみたいと思います。

出資額を限度とする有限責任のある社員だけで構成するのが合同会社です。株式会社は基本的にお金だけ出資して、経営は専門家に任せようという発想ですが、合同会社は出資者が自ら経営します。所有と経営が分離していませんが、むしろ小さな会社ではその方が自然ではないでしょうか。特に一人で会社を始めるのに所有と経営の分離もおかしな話です。

合同会社はアメリカに倣った制度で、LLC(Limited Liability Company)と呼びます。合同会社は株式会社と比較すると、会社運営の自由度が高く、組織もシンプルで設立費用も安いというメリットがあります。株式会社だと法定費用だけで24万円かかりますが、合同会社では6万円です。設立を行政書士に依頼する場合には、その費用も当然安くなります。また、株式会社の場合は株主総会の開催など法律上守らなければならないことが多々ありますが、合同会社はそれが少なくなっています。なぜなら、株式会社は所有と経営が分離していますので、所有者(株主)から見ると、経営陣の暴走を許さないような規制が必要になりますが、合同会社は自分で所有して自分で経営するので自己規制、自己責任で済むからです。その他の特徴もありますが、これから会社を起こそうとする人は、必ずしも株式会社だけでなく合同会社というオプションもあるということを覚えておいて損はないと思います。

似て非なるものに、LLP(Limited Liability Partnership)=有限責任事業組合というものがあります。会社法上の会社ではありません。また民法上の組合でもなく、その中間で、「有限責任事業組合契約に関する法律」に定義されています。個人あるいは会社が、上下関係がなく、並列、仲間として集まったようなものです。文字通りCompany でなく、Partnership になります。有限責任で、取締役会や株主総会のような決議なしに、内部の出資者の総意で自由に意思決定が出来るという点ではLLCと同様ですが、法人としての概念をもたず、寄り合い所帯という点では大きく異なります。その結果として、LLPには法人所得、法人税がなく、直接、構成員(個人あるいは会社)に課税されます。構成員全体で上げた利益に課税するというステップがないので、パススルー課税と呼ばれます。言ってみれば利益に対して二度課税されない
ことになります。赤字の場合は直接構成員の費用に計上できるわけなので非常にメリットがあります。

更にLLPとLLCの違いには以下のようなものがあります。
・LLPを立ち上げるには2人以上必要ですが、LLCは1人で作れます。
・LLPは会社法外の組合であり、株式会社への転換はできません。LLCは会
社法の範疇で株式会社に転換可能です。
・LLPは法人ではないので、LLPとしては財産を持ったり、契約をしたり、
不動産登記をしたりということが出来ません。LLCは当然出来ます。
LLPは既に自立、成立している個人事業主、会社が共同で、永続的ではない(一時的な)事業を行うようなイメージです。例えば、広告代理店、映画制作会社、プロダクションや出版社、テレビ会社などが集まって、映画製作のLLPを組成することが考えられます。利益が出れば皆で分け、損失が出れば出資額の範囲で、それぞれの会社、個人がかぶります。

一人で会社を始めるのならLLC、既に個人事業、会社を始めていて、新たに共同で新しい事業を始めるのであればLLPを考えてみることをお勧めします。

(2008年7月19日)

知的財産権と登録商標

巷にはモノがあふれ、特徴のないモノにはお金を払わなくなってきました。実質価値から付加価値にお金を払うようになってきました。有形資産から無形資産へ。

Intangible asset、知的資産重視の時代です。

以前、知的所有権と呼ばれていたものが現在は知的財産権と呼ばれています。略して「知財」です。知的財産権は以下のように大別されます。
1)産業財産権---以前は工業所有権と呼ばれていたもので、特許権、
実用新案権、意匠権、商標権になります。
2)著作権-----狭義の著作権と著作隣接権です。
3)その他-----肖像権や商号権などがあります。

今回は、知的財産権(知的所有権)の中の産業財産権(工業所有権)の中の商標権の話です。

他から区別する目的で使用する名称やマークを一般用語では標章と言います。標章を商業的に使用すると商標になります。そして、そのうち特許庁で登録されたものが登録商標になります。

製品名の右肩に小さなマルアール(大文字のアールを丸で囲んだもの)とTMという記号を目にすることがあります。分ったようでいて十分にはわかっていない記号です。実は、マルアールもTMも日本の決まりではなく、米国の連邦商標法上で使用が必要とされている記号です。マルアールは登録されている商標を意味し、TMは登録していないものの”商標”として使用していることを意味します。必ずしも出願中である必要はありません。

マルアールをつけることは、『すでに登録済みなので他の人は使用してはいけない』という意味と『無断で使用したら損害賠償請求をする』という2つの意味があります。逆に言うと登録してあってもマルアールをつけていない場合は、他の人が使用しても損害賠償請求が出来ないことになります。また、米国は「使用主義」を採用しており、その標章を商標として使用し始めた時から権利が発生するとされています。その意味でTMマークも重要になるわけです。しかし、いずれにしろそれらは米国の話であり、日本の話ではありません。

日本では、登録された商標を使用する場合には、それが登録商標であることを示す表示をすることが望ましいとされているだけです。よくある、「○○○は△△△株式会社の登録商標です。」というものです。仮に表示をしなくても権利は守られます。更に言えば使用していなくとも権利があります。それを「登録主義」と呼びます。また、同じ商標であれば先に出願をした人に権利があります。(先願主義)日本には、商標に対してマルアールやTMを付けるという法的な要請はありません。ただ、もしもの時に、商標を使用しているという立証に役立つとは言われています。日本で商標登録は弁理士の業務とされています。しかし原則は本人出願であり、一般企業が弁理士に依頼せず自ら出願することも少ないことではありません。

特許庁へ商標登録をする費用ですが、出願時と審査に通った時の登録料の2本建てです。
一つの商標を一つの区分へ出願するという仮定で、
・本人/企業自らが出願する場合であれば、
出願費用が21,000円で登録料が66,000円、合計87,000円で済みますが、
・弁理士に依頼すると、平均的な報酬を加えて、
出願時の費用が88,000円で登録時の費用が111,000円、合計199,000円
と2倍以上になります。

(2008年4月13日)