相続人に未成年の子がいるとき

若くして交通事故などで亡くなるケースがあります。
相続人が30代前半の配偶者(奥様)と小さな子供の場合、不動産の相続登記に関して話が少し複雑になります。

  • 法定相続にするとき
    • 共有で子供が権利を得ることになるので、特に問題がなく、母親が登記申請をすることができます。
  • 母親が単独所有にするとき
    • 今後、ずっと母親が子供の面倒をみるので、処分等のとき便利なように、母親一人の単独名義にする場合があります。
    • この場合、相続人である未成年の子には特別代理人の選任申し立てをする必要があります。
    • そして、未成年の子に代わって、特別代理人が、母親の単独相続に対して合意をすることになります。
    • 考慮しなくてはいけないことは、まだ母親が若いので、再婚の可能性があることです。
    • 再婚してその相手との間に子ができた場合の相続を想定しておく必要があります。
    • その母親が亡くなったとき、再婚した夫が存命中かどうかにより割合は異なってきますが、いずれにしろ当初の子の相続割合は少なくなってしまいます。
    • 周囲の人も、特別代理人もそこまで考慮に入れて、判断する方が良いと思います。

自宅不動産を複数人で相続するとき

自宅不動産を中心とした遺産を複数の相続人で相続するというのは良くある話です。相続人に公平に配分できるほど土地が広かったり、あるいは預貯金が多かったりすれば、分割しやすく、遺産分割協議もまとまり易いといえます。しかし実際には、相続財産のほとんどが自宅不動産で、そこに被相続人と相続人の誰かが一緒に住んでいたというケースはかなり多いです。このようなケースでの遺産分割はまとまりにくいことがあります。遺言を残すにしろ、遺産分割協議で分割するにしろ難しい面があります。

今回は、遺産の中心が自宅不動産というケースの相続方法に関してです。

はじめに

不動産を持っているとまず最初に気になるのは相続税です。しかし居住用不動産が遺産の中心というケースではほとんど心配はありません。相続税を払うような相続は全体の5%以下と言われています。相続税は、5,000万円に相続人1人当たり1,000万円を乗じた金額を加えた金額が基礎控除になります。例えば、配偶者と子ども二人が相続人の場合では8,000万円まで相続税がかからないことになります。建物は減価償却されていますので、現実的には土地の評価額が気になるところです。しかし被相続人が居住用に使用していた240㎡以下の土地で、相続人が継続して居住用に使用するのであれば「小規模宅地等の特例」が適用され、税額が80%減免されます。これにより、相続税のかかる人は非常に減ってきます。

相続が発生しますと、民法上では相続財産が法定相続人全員による法定相続割合に則した共有になったとみなされます。その共有状態を遺言書、あるいは遺産分割協議書などにより修正して、分割し、各相続人の固有財産として所有することになります。

分割方法には、現物分割、代償分割、換価分割の3つの方法があります。

現物分割

現物分割とは、個々の財産についてその取得者を個別に決定する分割方法です。自宅は長男へ、預貯金は長女へ、有価証券は次男へというように、個々の財産を分割しないでその現物のまま分割する方法です。この方法ですと、相続財産における自宅不動産の占める割合が大きい時に困ります。自宅を相続する人の相続割合が大きすぎることになり不公平になってしまいます。不動産を分割しても意味がある程広いのであれば、不動産自体を分割するという話もありますが、現実的には多くはありません。

代償分割

そこで、代償分割という方法が良く行われます。遺産のほとんどが自宅不動産で、相続人の一人が継続的に居住、かつ相続となると、その人が遺産の多くを相続することになります。結果として、分割割合が不公平になってしまいます。その場合には、まずその不動産を売却したと仮定して、その想定売却金額と他の預貯金等を合計して、総遺産額を算出します。そして、その金額を分割割合で配分するわけです。しかし、結果として、不動産を相続する人が多額の現金を他の相続人に渡すことが出てきます。その現金の捻出に苦労する場合があります。また想定売却金額でももめるケースがあるようです。一般的には、市街地であればいわゆる路線価を採用することになります。税務署で調べることが出来ます。

換価分割

代償分割をしたいが、不動産を相続する人が他の相続人に渡す現金を用意できないケースなどの時に採用されます。不動産を実際に売却してその代金を相続人間で配分します。ただ、実際には被相続人の住んでいた住居に継続して居住したい、あるいは出てしまったら他に住むところがなくなってしまう等の理由で、なかなか自宅を売却することが出来ないケースがあります。また換価分割の場合は税金にも注意する必要があります。

共有

当然、不動産を共有のままにしておくことは出来ます。現物分割では遺産が偏りすぎ、代償分割では自宅を継続使用する人が現金を用意できず、換価分割では住むところがなくなってしまうとなると共有のままということになります。しかし共有はその時は良いとしても年月が経過しますと必ず不都合が生じてきます。共有者の一人がお金が必要になり売却したいと思っても全員の同意が必要です。また共有者が亡くなると相続が発生し、権利関係が複雑になってしまいます。共有は避ける方が無難です。

まとめ

現実的には、何もしないというケースもあり得ます。自宅がまだ亡くなった人の名義のままというケースがよくあります。年とともに相続人が亡くなっていきますので、その相続も発生します。関係者が増えて複雑になってしまいます。基本的に中間省略登記は出来ませんので、いつかは亡くなった人の順番に逐次相続処理をしなくてはなりません。面倒なことを次世代、次々世代に押し付けているだけになります。相続登記は早めに行うことが必要です。

遺産分割が相続人の間でもめないようにするのが人生最後の仕事とも言えます。折角、皆のために生きてきたのに最後に自分のことが原因でもめてしまっては元も子もありません。遺産を分割しやすいようにしておく、分割割合、分割方法を予め相続人に理解してもらう、遺言書を書くなどの準備が必要です。家族、親族に揉め事の種を残して、”後はよろしく”ということだけは避けたいものです。

(2010年 11月 6日)

不動産の相続登記

親が亡くなっても不動産の相続登記をしていない方が少なからずいます。別に支障がないから良いだろうということだと思います。確かに固定資産税を払っている限りにおいては役所からも指摘されません。暫くは困らないとは言えます。ただ、いつかは困ります。問題を先送りにしていることになります。

今回は相続による不動産の所有権移転登記に関してです。

相続登記をしないことによる不都合

相続登記をしないと、後々以下のように事態が複雑になってくる可能性があります。
・相続人が死亡して、その子供に相続権が移ってしまった
・相続人が結婚して、その配偶者がお金にうるさい
・相続人の経済状態が変わってしまった
・相続人である配偶者(故人の夫、妻)が再婚をした
亡くなった直後であれば、故人のためにも話を丸く収めようと努力するでしょうし、記憶が鮮明なので故人のために尽くした人が多く相続しても納得できるでしょう。しかし、年月が経過してしまうと相続関係が複雑になったり、関係者が増えたり、余計なことを言う人が出てきたりと厄介になってきます。問題を先送りにしたい気持ちも分りますが、いずれにしろやらなければならないことです。問題が大きく複雑にならないうちに片付けておいた方が良いと言えます。

「相続による不動産の所有権移転登記」を相続の部分と登記の部分に分けてみます。

不動産の相続

まず相続です。
相続人が1人であれば問題ありません。その人が全て相続すれば良いだけです。ただそのようなケースは少なく、相続人が複数いる場合がほとんどで、その場合には遺産分割が必要です。以下の3つのケースがあります。
1)遺言があり、その通りの分割をする
2)法定相続通りの分割をする
3)相続人全員で遺産分割合意書により合意分割する
まだ、遺言分割はそれほど多くはありません。また様々な事情がありますので単純に法定分割で済むケースも多くはありません。結局は、相続放棄も含めて話し合い、相続人で合意分割することになります。そして、遺産分割協議書を作成することになります。その中で、相続人の誰がその不動産を相続するか記載すれば良いわけです。しかしこれが意外と簡単ではなく、ずるずると相続登記が遅れてしまう原因になっています。

相続人による不動産の変更登記

不動産を相続する相続人が決まれば、次が登記です。
登記は本人申請が原則になっています。決して司法書士に頼まないといけないわけではありません。確かに、売買のように相手がいて共同申請が必要な場合は、取引の安全を図る上で専門家である司法書士に依頼することが現実的です。しかし、相続登記は単独申請ですので簡単です。本人申請が可能です。

具体的には以下の書類が必要になります。
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本、改製原戸籍謄本
・被相続人の除住民票
・相続人全員の戸籍謄本
・遺産分割協議書(実印押印)
・相続人全員の印鑑登録証明書
・不動産を相続する人の住民票
・固定資産評価証明書
以上の書類により、法務局は、
1)被相続人の戸籍によって相続人を割り出すことと
2)相続人全員で遺産分割を合意し、当該不動産は申請人が相続することで間違いがないことを判断することになります。
なお、相続登記の場合は、固定資産税評価額の1000分の4の登録免許税が必要になります。

自ら相続登記を行った実例

ところで先日、80歳のお年寄りに遺産分割協議書を作成して差し上げました。必要書類を教えておいたところ、司法書士に依頼せず自ら所有権移転登記を済ませてしまいました。法務局の相談窓口の方が丁寧に教えてくれたので特に問題なかったとのことです。5~10万円程度の司法書士費用を払わないで済んだことになります。相続登記は遺産分割協議書さえ作成できれば簡単です。

一見面倒に見えても、やってみると案外簡単なことが多いものです。お金に余裕があり、時間に余裕がない場合は別ですが、そうでなければ、相続登記は本人申請がお勧めです。また、新築建物の所有権保存登記、登記名義人の住所や氏名変更、あるいは抵当権抹消登記も同様に単独申請で簡単に行えます。

(2009年10月10日)