民法(相続関係)改正法の施行期日

民法(相続関係)改正法の施行期日は以下のとおりです。

(1) 自筆証書遺言の方式を緩和する方策
2019年1月13日
(2) 原則的な施行期日
2019年7月 1日
(3) 配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等
2020年4月 1日

>法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日について」

>法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」

相続手続きがやや簡素化されます。

法務省は5月から新たに「法定相続情報証明制度」という仕組みを導入する予定です。

相続時に行う不動産の所有権変更登記、銀行、証券会社などにおける解約などをするとき、遺言がない場合には、基本的に被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を集め、それぞれの機関に原本を提出する必要があります。これが結構大変です。

  • まず、出生まで遡って戸籍を集めるのが大変です。
  • 更に、それぞれの機関に原本を提出するので、郵送のときはその原本が戻ってくるまで待たないと次の手続きができません。
  • 法務局、銀行、証券など各機関では、全く同じように戸籍の確認をするので社会的な時間の損失という面もあります。

今後は、出生から死亡までの戸籍と相続関係説明図を法務局に提出すれば、新しい証明書を受け取ることができるようになります。
その後の銀行、証券などでの手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍の代わりに、新しい証明書を提出すれば、相続手続きをしてもらえることになります。

この新しい「法定相続情報証明制度」のメリットは以下のとおりです。

  • もし、銀行、証券などにこの新しい証明書の写しを提出すれば良いのであれば、原本が戻ってくるまで待つことなく、複数の解約手続きを並行で行えます。結果として、相続手続期間がかなり短縮されます。
  • 銀行、証券側は出生から死亡までの戸籍の確認をする手間がなくなります。この社会的コストの削減が最も大きな効果だと思います。

この新しい「法定相続情報証明制度」の留意点は以下のとおりです。

  • 相変わらず、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集める手間はなくなりません。相続人側からするとここが最も大きな負担なので、その点から言えば、この新しい制度は肩透かしのようなものです。
  • 銀行、証券に新しい証明書の原本を提出しないといけないのであれば、やはり返送されるまでの間、次の手続きは止まってしまいます。
  • 不動産があるときは、最初に相続登記を行い、この新しい証明書を取得すれば、その後の銀行、証券の手続きは少し軽くなります。(あくまで少しです。)
  • もし不動産がないときは、この証明書を取得するために法務局に行くという新たな手間が増えてしまいます。不動産のない相続においては、この新制度のメリットは限定的なものになってしまいます。

この新制度で最も大きな恩恵を受けるのは、おそらく、銀行、証券など金融機関の相続センターの担当者だと思います。

相続のルール大規模改正へ

民法の一部である相続法の改正作業が進んでいる。

高齢化や相続対象となる財産の蓄積が進んでいるにもかかわらず、相続法は1980年以来大きく改正していない。遺産分割を巡る争いが増えるなど相続を取り巻く環境は深刻化している。相続にまつわる不満や調停、審判などの紛争になる事案を元にして検討しており、紛争の解決・予防を狙っている。ただ遺産分割の仕方がより複雑になる可能性があり、相続紛争に拍車をかける恐れもある。

  • 配偶者の居住権の保護
    案)相続開始時に住んでい建物の使用を認める「長期居住権」を新設
    理由)子供がルール通りの遺産分割を主張して配偶者が住み慣れた家を売却せざるを得ないことがある。
  • 配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現
    • 案)婚姻期間中の増加した財産は配偶者の法定相続割合を引き上げ、それ以外の財産は法定相続割合を引き下げる。
      理由)被相続人が再婚後数年で相続が発生した場合に、現在の法定相続割合は高すぎるのではないか。
    • 案)婚姻期間が20年以上の場合は、配偶者の法定相続割合を引き上げる
      理由)高齢化が進む中、残された配偶者の生活保障をするには現在の法定相続割合は低いのではないか。
  • 寄与分の見直し
    案)介護や療養看護に貢献した相続人に対する要件を緩和する。
    理由)親の介護や療養看護に一切関わらなかった兄弟姉妹が、均分相続を主張するのはバランスが悪くないか。
    理由)相続人の配偶者が貢献しても相続人ではないため寄与分にカウントしない。
  • 遺留分の見直し
    案)遺留分減殺請求事件を家庭裁判所で全面的に解決できるようにする。
    理由)相続紛争は家庭裁判所で解決するのが原則だが、遺留分が絡むと地裁に委ねざるを得ない場合が出てきて、紛争が長引く。
  • 遺言の見直し
    案)自筆証書遺言の方式を緩和する。
    理由)全文を自筆したり訂正したりする場合に、押印が必要など様式が厳格過ぎるのではないか。

具体案は夏くらいまでにはまとめ、一般からの意見を求めるパブリックコメントの手続きにかけることになる。政府案は早ければ来年初めまでに作成、来年の国会に提案することになる見通し。

可決しても施行は先で、早くて数年後

日経新聞2016年2月2日より

もめる相続、負担は妻に

「もめる相続、負担は妻に」というタイトルの記事が10月30日の日経新聞に掲載されていました。

■相続の問題は妻の問題
夫の方が年齢が上の場合が多いこと、及び男性より女性の方が平均寿命が長いことを考えますと、当然ながら、夫が妻よりも先に亡くなるケースが多いと言えます。
平均余命でみると、女性の2人に1人が90歳近くまで、4人に1人が95歳まで生きるとのことです。
更に、妻が先に亡くなると夫はその後1.5年で亡くなるが、夫が先に亡くなると妻はその後15年生きるというデータもあります。
妻は夫の遺産相続を真剣に考える必要があります。

■相続でもめるケースが3つ挙げられています。

○1.子がいない夫婦の場合
子がいない夫婦の場合、妻が全てを相続できるかというとそうでもありません。子がいなくて妻が相続する場合、法定では以下のようになっています。

  • 夫の親がいる場合
    妻が2/3、夫の親が1/3相続
  • 夫の親がいなくて夫の兄弟がいる場合
    妻が3/4、夫の兄弟が1/4相続
  • 夫の親も夫の兄弟もいない場合
    妻が全て相続

夫の兄弟が亡くなってその子がいる場合は、代襲相続となり、甥や姪が相続します。
妻にすべてを相続させたい場合は、遺言を遺す必要があります。その場合、夫の兄弟には遺留分はありませんが、夫の親には法定相続分の1/2の遺留分がありますので注意が必要です。

○2.夫の親の介護をした場合
夫の親の介護をいくらしても、嫁には法定相続分がありません。夫の兄弟が物わかりが良く、遺産分割協議でその介護の寄与分を認めてくれれば良いですが、そのようなケースは多くはなく、泣き寝入りになってしまいます。仮に兄弟間であれば介護の寄与分は法律的には認められますが、それでも実際の裁判になると評価の度合いは少なく、限りなく法定相続に近い分け方になります。

ここでも、遺言を遺すことにより、介護の労をねぎらって嫁に財産を遺贈することができます。

○3.財産が家しかない場合
財産が家しかない場合で、妻が全てを相続できないときは非常に困ります。以下の方法になります。

  • 家、というより土地を実際に分筆します
  • 家を売却し、その売却金額を相続比率で分けます
  • 家を売却したと仮定して、他の相続人のその相続分相当額を現金で渡します。

しかし、土地が大きくないと分筆できませんし、家を売却したらすぐに住む家に困ってしまいます。現金で渡すにしても現金がなければ借金をするしかありません。
相続する財産が家しかない場合は、分割が非常に難しいので、特に遺言を遺す必要があります。

■遺言の数
2012年の遺言の数は、
公正証書遺言は約88,000件
自筆証書遺言の検認は約16,000件
で、共に、10年前と比べて約1.4倍。
日本の年間死亡者数は120万人なので、合計しても1%以下。
死亡者の伸びに比べて、遺言書の伸びは緩やか。

■婚外子問題
9月4日の最高裁判決により、婚外子の法定相続分が嫡出子の2分の1という民法の規定が覆されました。これにより、夫に婚外子がいる場合、その子の法定相続分は、法律婚の夫婦間の子と同じとなりました。婚外子側には朗報ですが、妻、嫡出子側には不利になります。相続に関わる夫の意思を、遺言にして遺す重要性が今まで以上に高まったと言えます。

2013年10月30日 日経新聞より

相続託し「争族」回避

本日の日経新聞に遺言信託の記事が掲載されています。

遺言信託は、遺言書の作成から、遺産の名義変更まで信託銀行が請け負う方法です。

  • 2013年3月末の遺言信託契約件数は約8万件、この10年間で2倍に増えた。
  • 遺言信託では、遺言書の作成に半年、担当の行員が契約書の自宅に足しげく訪問する。
  • 遺言書の作成から死後の財産分与まで、平均で7~8年かかる。
  • 基本手数料は、20万円~30万円程度、財産分与に必要な執行報酬は100万円以上かかる。

遺言信託は、進め方、費用などを考えると相当な資産家向けと言えます。遺産総額が数億円以上であれば良いかもしれませんが、一般の人には敷居が高いと言えます。行政書士であれば、同等のことを行っても数分の1の金額で済みます。

  • 2015年からの相続増税
    2015年1月1日以降に発生する相続に関しては増税されることが決定されています。

    • 相続税を支払う人の比率は4%から7%に上がると言われています。
    • 基礎控除額
      「5000万円+1000万円×法定相続人の数」から「3000万円+600万円×法定相続人の数」へと引き下げられます。
      相続人一人の場合、相続財産が6000万円までは課税対象外でしたが、それが3600万円になります。
    • 税率
      課税対象の相続財産が、2億円超から3億円以下が、40%から45%へ上がります。
      課税対象の相続財産が、6億円超部分が、50%から55%へ上がります。
    • 結果として、相続税支払いのため不動産を売却したり、物納したりするケースが増えると言われています。

相続に関する家庭裁判所への相談件数は、増加しており、2012年度に17万件を超えました。
今後も増税、老齢年金額の低下、相続人層の資産減少、権利意識の向上などにより、相続に関する争いはますます増えていくと思われます。

2013年10月14日 日経新聞より

相続財産の調査強化

相続税の課税強化が予定されています。それを見据え、税務署は既に相続財産の調査を強化し始めています。

  • 2010年の死亡者数は約120万人で相続税の納税申告件数は約5万件、その30%が実地調査を受け、そのうち申告漏れで税金を追徴されたのは約80%。
  • 申告書提出から1~2年の間に調査があり、財産が2億円以上だと調査される可能性が高い。
  • 被相続人の財産が相続人名義の預貯金に紛れ込む「名義預金」の調査が一段と厳しくなっている。相続人名義でも実質的に被相続人の管理下にあったと税務署が判断すれば相続財産に認定される。
  • 金は2012年から1回200万円を超える買い取りについて、取扱業者が税務署への支払調書の提出を義務付けられた。
  • 有料老人ホームを利用していた被相続人が短期間で死亡し退去した場合、入居一時金は返還され、通常は被相続人の財産として扱う。しかし、申告しないケースが多く、税務署が確認を強化している。
  • 2000万円以上の所得のある人に提出義務のある「財産及び債務の明細書」の提出を税務署から強く求められることが増えてきた。

税務署が重点チェックする項目

  • 被相続人の生前の所得・資産に見合う財産額を申告しているか?
  • 相続人(家族)名義の預貯金に被相続人の財産が紛れ込んでいないか?
  • 相続人名義の同族会社株は実質的に被相続人の財産ではないか?
  • 被相続人の生前贈与は適正か?
  • 国外にある預貯金などの相続財産をきちんと申告しているか?
  • 有料老人ホームの入居一時金の返還分を申告しているか?
  • 債務・葬式費用などを過大に差し引いていないか?
  • 「法規模宅地の評価減」が受けられないのに申請していないか?
  • 被相続人の死亡直前に多額の預貯金を引き出し、財産を減らしていないか?
  • 相続人は納税資金をどのように調達したか?

相続税の税務調査に対応する方法

  • 被相続人、相続人の預貯金通帳を3~5年分用意
  • 申告していない財産はないか、もう一度精査
  • 国外財産は十分な説明資料を準備
  • 被相続人の預貯金口座などからの出金について、合理的な説明資料を準備
  • 被相続人からの贈与を主張するなら、証拠(贈与税申告書、契約書)を用意

2012年12月15日 日経新聞より

遺産分割でもめそうなケース

・家族、相続人の仲が悪い
・現在の家族のほか、先妻との間の子供もいる
・家族に内緒で認知した子がいる
・相続人の数が多い
・自宅以外、あまり財産がない

以上の場合で、遺言がないと相続人全員で話し合って決めることになりますが、紛争に発展する危険度が高いです。

そのためには遺言で遺産の分け方を指定しておけば、相続人同士が話し合う必要がなく、争いを回避することが出来ます。

2011年6月 7日

数次相続の事案

父親がまず亡くなり、それから数十年して母親が亡くなり、兄弟で相続する事案です。本来は父親が亡くなった際に相続しなければならなかったのですが、怠っていました。数次相続になり、結構面倒になりそうです。

相続手続きは次世代につけを回さず早めに行うべきです。後回しにしても何の得もありません。複雑さが増すだけです。更に言えば、相続が簡単になるように有効な遺言を遺すべきです。もっと言えば、生前に自分の財産の始末をしてしまえば相続さえもなくなります。死後の相続は争いの元です。本来は生前に片を付けておくべきものなのでしょう。

2011年5月29日