普及し始めた成年後見制度

成年後見制度が施行されてから10年が経過しました。成年後見制度は介護保険制度と同時に2000年4月に施行されました。介護保険は、色々な問題はあるにしても人々の生活に深く定着したと言えますが、成年後見制度はまだそれほど定着したとは言えません。しかし、それでも新聞、雑誌等で目にする機会が増えてきました。

今回は、自分が、あるいは周りの人が認知症等になり、判断能力が衰えたときに役に立つ成年後見制度の概要です。

介護保険制度は、身体の自由が利かなくなったときに身体に対して様々なサービスをする制度です。それに対して、成年後見制度は、判断能力が衰えたときに財産等に対して様々なサービスをする制度です。10年前に導入された介護保険ですが、それまでのお年寄りに対する措置という考え方から、介護サービスを自ら契約するという考え方に大きく転換しました。ところが、認知症の人は自ら契約をすることができません。そこで成年後見人を通して契約するという考え方になりました。これらの理由から、介護保険制度と成年後見制度は車の両輪とよく言われています。

認知症などにより判断能力が低下したり、欠けたりすると、必要な財産管理や生活管理、療養看護等に関して自分で決めることが困難になります。
そのような場合に、

  • 家庭裁判所の監督の下に
  • 本人の自己決定権をできるだけ尊重しながら
  • 本人の権利や利益を保護するとともに
  • 本人が持っている能力を活用して
  • 普通の生活が維持できるように支援していくこと

が必要です。
そのための制度が成年後見制度になります。

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があります。

法定後見制度

本人の判断能力が既に低下してしまった場合に、本人、家族等が家庭裁判所に申立てをする制度です。本人の判断能力の程度に応じて以下の3つに分かれます。

  • 後見:常時、判断能力を欠く場合
  • 補佐:判断能力が著しく不十分である場合
  • 補助:判断能力が不十分である場合

家庭裁判所はそれぞれに対応して、成年後見人、保佐人、あるいは補助人を選任します。申立ての際に後見人等の候補者を予め決めてから申立てをする場合もありますが、候補者がいない場合は、家庭裁判所に選任してもらいます。そのため、家庭裁判所は後見人の候補者名簿を保有しています。
いずれの場合も家庭裁判所が本人にとって適任と思われる人を選任しますので、必ずしも申立て時に提出した候補者が選任されるわけではありません。家庭裁判所が第三者を法定後見人等として選任する場合には、弁護士、司法書士、社会福祉士、行政書士などを選任します。

後見人等の役割の中心は、本人の財産管理になるので、普通考えると子供などの家族が後見人等になるように思えます。実際、7割程度は家族が後見人等になりますが、残りの3割程度はそうではありません。家族間で本人の財産に関してトラブルになっている、疑心暗鬼になっている、あるいは近くに適切な家族がいないなど、様々なケースがあり、家族以外の第三者が後見人等になっています。

後見人等は、本人のために、財産管理(費用支出、不動産管理・売却等)や治療、介護、老人施設への入居に関する契約締結等をします。重大な責任を負いますので、行った職務内容を家庭裁判所に報告します。それらの活動に対する報酬は、第三者後見人等の場合、本人の財産から支払われることになります。

成年後見制度が施行される前は、禁治産、準禁治産という制度がありました。本人の判断能力という観点からは、禁治産者が被後見人、準禁治産者が被保佐人に対応します。成年後見制度では、更に被補助人というもっと症状の軽い人をも対象にしました。しかし、名称もさることながら、以前の禁治産制度と現在の成年後見制度では、制度そのものの発想が根本的に異なっています。
以前は、判断能力が低下した時に、
 「裁判所は、あなたが自らの財産を治めることを禁じます。」
という観点から制度設計がされていましたが、
現在は、
 「裁判所は、後見人を選定し、後見人によって、あなたが自らの財産を使いながら、人間らしい生活ができるようにサポートします。」
という考え方に変わりました。

任意後見制度

法定後見制度は判断能力が不十分になってからの制度ですが、任意後見制度は判断能力が十分なうちに、判断能力が不十分になることを想定して予め契約する制度です。本人が、予め信頼できる人を任意後見人と定め、判断能力が不十分になった時に支援して欲しい内容を公正証書による任意後見契約によって定めておきます。判断能力があるわけですので、契約内容は自由になります。しかし、契約の効力は、本人が判断能力を欠く常況になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時に生じます。自由契約だけに任せてしまうと、任意後見人が判断能力のなくなった被後見人の財産を害する恐れがありますので、このように家庭裁判所の監督が及ぶような仕組みになっています。

しかし、現実にはいつ判断能力が衰えるかわかりません。その意味では常日頃から本人と任意後見契約をした受任者がコミュニケーションを図る必要があります。そのため、本人が判断能力の十分なうちは見守り契約、あるいは財産管理等委任契約を締結、発効させ、いざというときにスムースに任意後見契約に移行させるのが一般的になっています。もし亡くなるまで判断能力を欠く常況にならなければ、任意後見契約が発効しないことになります。任意後見契約は転ばぬ先の杖と言われますが、任意後見契約を締結されるような方は用意周到な方なので、転ばない(呆けない)とも言われます。逆説的です。
なお、任意後見には、法定後見のような補佐、補助の制度はありません。

成年後見制度の最も重要なポイントの一つが任意後見の導入です。判断能力がなくなってから措置をしてもらうという考え方から、判断能力がなくなった時にして欲しいことを自己決定して予め契約をするという非常に大きな考え方の転換がなされています。

任意後見契約と遺言書を組み合わせることにより、

  • 認知症になったときは、自分の財産を自分の意思で自分のために使い、
  • 亡くなったときは、残った自分の財産を自分の意思で相続させる

ことができるようになります。

成年後見登記制度

成年後見等の審判を受けているか、任意後見がされているか、誰が成年後見人等なのか、その成年後見人等の権限がどうなっているかなどを管理するコンピュータシステムが成年後見登記制度で、東京法務局後見登録課が管理しています。これにより、従来の禁治産者、準禁治産者のように戸籍に記載されることがなくなりました。

まとめ

成年後見制度の理念には、

  • 自己決定権の尊重
  • 残存能力の活用
  • ノーマライゼーション、QOLの向上

などがあります。
高齢化に伴い、今後ますます増える認知症の人をサポートする仕組みを構築し、特別視しないで社会に参画してもらおうという考え方です。
非常に貧しい生活をしていた人なのに、亡くなってみると現金で3,000万円残されていたという話がありました。あるいは、残された遺産がほとんど行き来のなかった甥、姪に相続されたり、悪質商法、振り込め詐欺などに騙されたりなどの話もあります。歳を重ねると自分のお金を自分のために有効に使うことが難しくなってきます。それには判断能力が必要です。そのための制度が成年後見制度だと言えます。

(2011年 2月21日)