監査役の役割と取締役との関係は?

監査役の職務は取締役の職務執行の監査にあります。

株式会社は所有と経営の分離が行われているので、株主が経営の専門家である取締役に会社運営を委任していることになります。しかし、委任された取締役は権限が大きいので、勝手なことをしないとも限りません。そこで、会社の所有者である株主は、取締役を監視する者として監査役を会社内に送り込むことにしました。つまり会社運営を任せた人とそれを監視する人の両方を会社に送り込んで均衡を図っていることになります。

取締役が少ないうちは、株主が直接、取締役の行動を監視することができなくはないです。そこで、監査役の設置はまず原則的に任意になっています。しかし、規模が大きくなり、取締役会を置くような場合には、(例外はありますが)原則的に監査役が必要になります。取締役会の設置には取締役が3名以上必要です。取締役が増えると株主から離れて勝手なことをする可能性が高まるという意味から、監視する人が必要になるわけです。

取締役と監査役は、監視される側と監視する側の関係なので、兼務することはできません。また、親会社の取締役は子会社の監査役を兼務して、子会社を監視することができます。しかし、親会社の監査役は子会社の取締役になると立場が弱くなり、親会社の取締役の監視という本来の職務がしにくくなるので兼務が出来ないことになっています。

なお、監査役就任時に印鑑登録証明書は必要ありません。

(2011年11月20日)

取締役会と取締役の関係

同じ取締役という名称ですが取締役会のない場合とある場合では、取締役の意味は大きく異なります。

取締役会非設置会社
・原則的に、取締役各自に業務執行権限、代表権があります。
・会社設立時の取締役就任承諾書には、取締役全員の印鑑証明書が必要です。
・代表取締役は任意です。
・代表取締役を選定した場合、その他の取締役から代表権を奪うという考え方です。

取締役会設置会社
・取締役には業務執行権限、代表権がありません。
・会社設立時の取締役就任承諾書に、印鑑証明書は不要です。
・取締役は取締役会の単なる構成員にすぎません。
・取締役会が会社の業務執行等について会社の意思決定を行います。
・代表取締役の選定が必須で、代表取締役に新規に代表権を与えるという考え方です。
・代表取締役就任承諾書に印鑑証明書が必要になります。

(2011年11月15日)

会社の経営がうまく行かなくなってきたとき

会社の経営がうまく行かなくなってきたときに進むべき道はいくつかあります。

1)会社を継続させる方法
民事再生
公正な手続きにより、債権者の平等と企業の再建を図ろうとするものです。原則として現状のままで再生を試みるのが建前ですので役員などはそのままです。ただ、ほとんどの場合、経営陣を監督する監督委員が選任され、監督委員が同意しなければできない行為等が登記され、経営陣の活動は一定の制約を受けます。

会社更生
会社の再生を目的とするのは民事再生と同様ですが、会社更生法という法律に基づいて進められます。旧経営陣の権限は基本的に管財人に移ります。会社更生は民事再生より手続きが厳密で終了までに相応の時間がかかります。最近は「DIP型会社更生手続き」により、一定の条件の元、取締役が管財人として引き続き業務の運営にあたることが増えつつあります。

2)会社を解散させる方法
破産
債務を弁済できず、会社の再建、再生が困難な場合は破産となり、破産手続きをすることにより、解散します。債務者等から破産の申し立てがされ、裁判所が理由ありと認めれば、破産手続き開始決定をし、破産管財人を選任します。破産は委任契約の終了事由となり、役員は当然に退任します。破産管財人は会社の財産を金銭に換えて債権者に配当します。債務者の財産自体が極めて少ない場合は破産手続き自体を行わないこともあります。

破産以外
破産も解散の一つですが、その他、株主総会の決議、合併、休眠会社のみなし解散などで会社は解散、清算されます。日常の営業を行なわない清算会社が清算の目的の範囲内で存続し、基本的には取締役が清算人となって、清算事務を執行します。具体的には、業務を結了させ、債権を回収し、債務は弁済し、残余財産を株主に分配することになります。

2011年6月29日(水)

株主総会の議決の種類

株主総会の議決方法には、その議決する事項の重要さによっていくつかの種類があります。

基本的には以下の通りです。

  • 普通決議
    議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数により議決
  • 普通決議(取締役・会計参与の選任・解任および監査役の選任の場合)
    議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)の多数で議決
  • 特別決議
    議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の多数で議決
  • 特殊決議
    議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その全株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の多数で議決

(2011年4月20日)

定款と登記の関係

定款の記載事項と登記事項の関係が少し分かりにくいです。

定款とは会社運営の基本事項、基本ルールです。会社にはある程度自治権があり、法令に違反しない範囲で、自ら運営ルールを作成することが出来ます。それが定款です。どのような事業を行うか、株式をどのくらい発行するか、取締役会を設置するか、などです。会社設立時に発起人が集まり、どのように会社を運営しようかと話し合います。そして定款を作成するわけです。ただ、行政としては勝手に法令違反の定款を作成し、勝手に法令違反の会社運営をされては困るという考えがあります。そこで、会社設立段階の定款が法令違反をしていないかどうか、公証役場という役所がチェックをする仕組みになっています。

ところで、定款に書かれていることの一部が登記事項になります。定款は30数条6~7ページになりますが、登記事項はそれ程多くはありません。会社設立申請時に法務局に「登記すべき事項」という書類を提出します。それが文字通り実際の登記事項になります。最近手がけた会社設立の書類では、具体的に以下のようになっています。
商号、本店、広告をする方法、目的、発行可能株式総数、発行済み株式の総数、
資本金の額、株式の譲渡制限に関する規定、役員に関する事項、監査役設定会社に関する事項
会社設立をするとすぐに「現在事項全部証明書」をとりますが、そこにはまさしく上記の項目が並んでいます。唯一追加されているのは、会社設立の年月日だけです。

会社設立後、会社が成長するにつれ、資本金の額が増えたり、取締役会を設けたりと会社の基本事項、基本ルールが変化します。それに伴い定款変更及び変更登記を行うことになります。定款に対する変更は基本的に株式総会の特別決議で決定し、変更します。その変更にはもはや公証役場は関与せず、会社内で責任をもって変更、管理していくことになります。定款に記載されている事項の方が登記事項より多いので、定款変更をしても変更登記をする場合としない場合があります。逆に、役員の改選のように定款変更は必要ないが変更登記が必要な事項があります。法令を順守し、決まった手続きに沿って、適切に定款を変更し、登記を変更することは会社運営の基本になります。

(2011年4月19日)

劇場型未公開株詐欺事件が増加

本日の日経新聞に未公開株詐欺が急増しているという記事が掲載されていました。何人もがぐるになって綿密に筋書きを描いて皆がそれぞれのパートを演じ切るようです。そこで、劇場型詐欺と呼ばれるそうです。

元々、登録していない未公開株取引業者は存在自体が違法です。ただ業法上違法であっても、一般に契約自由の原則があり、民事上被害者と締結した契約は有効になります。その有効な契約を詐欺を理由にして取り消すには、取り消す側の被害者が相手の詐欺を立証する必要があります。主張する被害者側に立証責任があるというのが原則です。結構、酷な話しです。当然相手にも弁護士が付きます。合意してお金を支払っているので被害者側からの詐欺の立証が結構難しいことになります。

そこで立証責任を転換しようという話になりました。向こうは違法な存在なのだから”詐欺ではない”と立証できなければ、契約を無効にしてしまおうということです。論理的に立証する側は難しく不利になります。攻撃する側は論理のほころびを追求すれば良いので有利になります。”詐欺ではない”と立証できなければ契約は取り消され、存在しなかった初めの状態に戻さなければなりません。つまりお金を全額被害者に戻す必要があります。

一般市民感覚からすると、誰が見ても詐欺だから契約は無効で当然のように思えます。法律の世界、弁護士の世界に入ると必ずしもそうでもなくなります。悪いことをする側が往々にしてお金をたくさん持っていることが多く、優秀な弁護士はお金で雇うことが可能だからです。巨悪を弁護する弁護士がいるのにいつも不思議な感覚を持ってしまいます。

2011年4月 7日(木)

合併、会社分割、株式交換、株式移転

会社の組織再編の意味と用語は誤解しやすいです。
以下に整理します。

  • 吸収合併
    A社がB社を吸収合併する。
    A社が存続しB社が消滅する。
    B社の株主にはA社の株式が割り当てられる。
    A社は「吸収合併存続会社」
    B社は「吸収合併消滅会社」
  • 新設合併
    A社とB社が合併しC社を新設する。
    A社とB社は共に消滅する。C社は新設されA社とB社の株主が移行。
    A社とB社の株主にはC社の株式が割り当てられる。
    A社、B社共に「新設合併消滅会社」
    C社は「新設合併設立会社」
  • 吸収分割
    A社が、B社から分割された一部の事業を吸収する。
    A社もB社も存続する。
    A社からB社に対価が支払われる。
    A社は「吸収分割承継会社」
    B社は「吸収分割会社」
  • 新設分割
    A社がB社を新設し、事業の一部を分割して譲渡する。
    A社は存続する。B社はA社の完全子会社として新設される。
    A社がB社の株主となる。
    A社は「新設分割会社」
    B社は「新設分割設立会社」
  • 株式交換
    B社の株式が全てA社の株式に交換される。
    A社がB社の全株式を取得して、代わりにB社の株主にA社の株式、あるいは金銭等を支払う。
    B社の株主はA社の株主になる。
    A社もB社も存続する。B社はA社の完全子会社になる。
    A社は「株式交換完全親会社」
    B社は「株式交換完全子会社」
  • 株式移転
    B社がA社を設立する。
    B社の株式を全てA社に取得させ、B社の株主にA社の株式を取得させる。
    A社もB社も存続する。B社はA社の完全子会社になる。
    A社は「株式移転設立完全親会社」
    B社は「株式移転完全子会社」

2011年4月 3日(日)

株主に株式の割当をしない株式の募集

公開会社でない株式会社において、株主に株式の割当を受ける権利を与えずにする募集株式の募集事項の決定は、

  • 原則として、株主総会の特別決議になります。
  • ただし、株主総会の特別決議により取締役、または取締役会に決定を委任することが出来ます。

それに対して、公開会社の場合、

  • 株式を引き受ける者に特に有利な発行でない場合は取締役会の決議によります。
  • 株式を引き受ける者に特に有利な発行の場合は、
    • 原則として、株主総会の特別決議によります。
    • ただし、株主総会の特別決議により取締役会に決定を委任することが出来ます。

2011年4月 2日(土)

株主総会と取締役会の権限

取締役会を設置していない株式会社では、株主総会は最高意思決定機関です。

その権限は、
会社法に規定する事項
株式会社の組織、運営、管理等一切の事項
に及びます。

それに対して、会社の規模が大きくなって取締役会を設置しますと、上記の権限の一部が取締役会に移ります。全てを株主が集まって決定するのは無理になり、取締役の合議体に権限委譲するわけです。
結果として、株主総会の権限は
会社法に規定する事項
定款で定めた事項
に限定されることになります。

(2011年3月30日)

ライツ・イシューとは何か?

増資には、
公募
第三者割当て
株主割当て
の3種類ありますが、日本ではもっぱら公募増資と第三者割当増資が行われています。

公募増資と第三者割当増資が行われますと、当然ながら既存株主の持ち株比率が減少します。以前から、会社の都合で、ある意味勝手に株式数を増やされ、1株当たりの価値が下がるのに釈然としませんでした。少し前の制度改正で、やっと日本でもライツ・イシューという既存株主に対する割当による増資が増加することになりそうです。まずは既存株主に購入する権利が与えられ、権利を行使しないのであればその他の新規株主が購入するのであれば一応納得できます。

投資収益率に敏感な海外投資家が株式の希薄化を招く日本の増資方式を嫌って、日本の株式市場から撤退しているというのは当然と言えるでしょう。ロンドン証券取引所の2009年上場企業の増資総額のうち、69%がこのライツ・イシュー方式とのことです。今更ながら日本の対応は遅いと言えます。株主を軽視しています。もの言う株主が相対的に少ないということなのでしょう。別にその方式で日本が成り立つのであれば問題ないものの、もはや成り立たなくなっているのは株価を見ても明らかです。即断、即決、即実行の機動的な対応が今の日本には求められています。

2011年3月28日(月)