「法定相続情報証明制度」(仮称)が新設されます。

法務省は7月5日、相続手続きを簡素化する「法定相続情報証明制度」(仮称)を来年度に新設すると発表しました。

今後の相続手続きに大きな影響を与えそうなので整理してみたいと思います。

【新制度の概要】

  • 新制度では、まず相続人の一人が、相続不動産のある管轄法務局に以下の書類を提出します。
    ・全員分の本籍や住所、生年月日などを記載した申請書類
    ・亡くなった人の出生から死亡までの戸籍と相続人全員分の戸籍
  • 提出された法務局は、書類を精査し、相続関係が確認できれば、公的な証明書を作成し、法務局内に保管します。
  • そして、相続人には、その証明書の「写し」が交付されます。
  • その証明書の写しは、別の法務局でも使えるため、同時に、他の法務局管轄の不動産などを相続する場合には、戸籍ではなくこの証明書の写しを提出します。
  • 金融機関などでも、その証明書の写しで手続きが行えるよう調整する予定です。

【現行制度】
現在の相続手続きを確認します。

  • 効力のある遺言がない場合、被相続人の財産を相続できる相続人が誰であるかを確定する必要があります。
  • そのため、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍などを遡って取得しなければなりません。
  • それぞれ、当該市区町村の役所で請求するので、転籍、婚姻、離婚、再婚などをしている場合は、相当な手間がかかります。
  • 被相続人との関係が分かる相続人全員の戸籍謄本(抄本)も必要になりますが、人数が多いとこの作業も大変になります。
  • 遺産分割協議により相続した場合は、相続人が実印を押印した遺産分割協議書や印鑑証明書もそろえなければなりません。
  • 揃えた一式の書類を、相続不動産を管轄する全ての法務局、解約する全ての金融機関、相続税申告をする税務署に提出します。
  • 一般的に、戸籍謄本類を複数部取得することはせず、各提出機関で原本還付という使い回しをして順番に手続きをするので、非常に日数がかかります。

【新制度のメリット】

  • 新制度では、相続関係の確定を最初の法務局でしてしまえば、その後の法務局、金融機関で何度も同じことをしないで済むというメリットがあります。
  • 現在は、同じ書類を提出して、複数の機関で同じことをしているわけなので、「膨大な社会的コスト」(法務省)の軽減が図れることになります。

【新制度の課題】

  • 被相続人の関係を確定するために、被相続人の出生から死亡までの戸籍類を取得すること、被相続人との関係が分かる相続人全員の戸籍類を取得する手間は相変わらず必要です。
  • この制度により、作業が軽減されて、恩恵を受けるのは、主に法務局と金融機関です。
  • 相続不動産が1件など、他の法務局管轄の相続不動産が存在しないときは、この新制度のメリットを生かせません。
  • 相続不動産がなく、相続財産が預貯金だけの場合に、この制度を利用できるのか不明です。
  • 相続人側からすると、原本還付を待って順番に手続きせずに、証明書の写しにより、並行的に進めることができるというメリットはあります。
  • 相続人側からすると、マイナンバーを使うなりして、戸籍収集の膨大な作業を軽減して欲しいところです。

以上のように、相続人からみるとこの制度の恩恵は限定的です。
やはり現時点で有効なのは、効力のある遺言を遺すことです。
効力のある遺言があれば、遺言の内容に沿って、遺産相続を行えますので、膨大な戸籍を取得するという重荷から解放されます。

(2016年7月6日)